No.18 新型コロナウイルス感染症と
どのように付き合っていくか
国内で新型コロナウイルス感染症の患者が確認されてから8か月が経ちました。しかし、未だ、この新型コロナウイルス感染症の流行は世界中で続いています。このような状況の中で生きる私 達は、日々の生活の中で、この新しいウイルスへの対応を強いられています。幸い私達には、流行発生以来、戸惑いながらも積み上げて来た知見は少なくありません。それらを基に、この新しい感染症に対しての正しい知識を持ち、それらに基づいた適切な対応が求められています。
株式会社 健康予防政策機構 代表・医師 岩﨑 惠美子
Q1
新型コロナウイルスとは?
コロナウイルスは、一般の風邪の原因ウイルスとして既に知られているウイルスです。しかし現在世界中で流行している新型コロナウイルス感染症は、今まで人の世界で確認されてこなかった種類のコロナウイルスが原因となって引き起こされた感染症です。
2019年12月31日に、WHOには中国湖北省武漢市で原因不明の肺炎の集団発生が報告されました。2020年1月9日には中国当局が、この肺炎の原因が新種のコロナウイルスであり、当初は動物市場から感染拡大したのではないかと発表しました。新型コロナウイルス感染症は、コウモリなどが関係する動物由来感染症の可能性が高いとされています。
このウイルスによって引き起こされる感染症の病状は多様です。
今回の流行での新しいコロナウイルスによって引き起こされた感染症は、呼吸器症状だけではなく、身体のいろいろなところで様々な症状を引き起こします。その症状の程度も一人ひとりで大きく異なり、特に肺などで炎症を起こした場合には重症な肺炎を起こし死に至るケースが見られ、その結果に人々は畏怖し、混乱してしまいました。糖尿病などの持病を持っている人や、加齢による変化が顕著に表れる血管や多くの臓器では、ウイルスによる炎症が起こりやすく、病状の推移に注意が必要です。重症の肺炎を引き起こした感染者で体外式人工肺(エクモ)等の機器を使っての治療が注目されましたが、肺炎を起こすだけでなく、血管壁にもウイルスが炎症を引き起こし、心筋梗塞、脳梗塞などを引き起こしたりすることもあります。また、多くの場合には、ウイルスは消化管にも及び、下痢を起こします。
コロナウイルスによる重症な感染症の流行は2003年に流行したSARSや2012年に確認されたMERSなどがありますが、これらが流行した時代と現代社会では人の動きに大きな差があり、感染拡大も速く広範囲に及ぶこととなってしまいました。
日本は他の国と比較すると、現時点でも死者は少なく、大流行を起こしたアメリカやブラジル、ヨーロッパ等に比べると、うまくコントロールされているようにも見えます。この原因は人種の問題なのか、私たちの生活習慣が影響なのか今のところ不明です。
日本では、4月7日に7都府県を対象に緊急事態宣言が発令され、その後対象を全国に広げましたが、感染者数が減ったことから、逐次緊急事態宣言の解除が行われ、感染対策を講じつつ、社会経済活動の再開が実施されました。
感染症の原因となる病原体は、人の中に取り込まれ、患者として動きます。人が動けば感染症の拡大は当然のことになります。新型コロナウイルス感染症でも、社会経済活動が再開された後、流行は再び徐々に広がってきました。現時点では緊急事態宣言をするような流行には至っていないようですが、引き続き一人ひとりがしっかり感染対策を実施し、新型コロナウイルスの流行を乗り超える知恵を身につけて行く必要があります。
Q2
新型コロナウイルス感染症はどのような病気なの?
新型コロナウイルスは鼻や口の粘膜から取り込まれて感染が成立します。
取り込まれたウイルスは、鼻とのどの間の上咽頭で増えます。その増えたウイルスは、血液の中に入り、血液の流れに乗って、血管自体の炎症を起こし、また、いろいろな臓器に運ばれてそこで炎症を起こします。肺では肺炎を起こし、腸管では下痢を起こします。血管炎の影響は心臓や脳血管などでも、心筋梗塞、脳梗塞を、アメリカなどでは川崎病に似た症状も子どもで見られています。新型コロナウイルス感染症は呼吸器のみに症状が現れる疾患ではなく、このように、さまざまな臓器に、いろいろな症状が現れる全身疾患であることを認識してください。
Q3
どのように感染が拡がるの?どのような感染対策をすればよいの?
●新型コロナウイルス感染症は、どのように感染が拡がるの?
ウイルスは血液の流れに乗っていろいろな臓器に運ばれるため、感染者の咳、くしゃみ、唾液、鼻水、便など様々なところにウイルスは排出されます。これらの排出されたウイルスに人の手が触れ、その手で、自身の口や鼻などを触れて、ウイルスが取り込まれ感染(接触感染)します。
●どのような感染対策をすればよいの?
新型コロナウイルス感染症の予防には、身の回りに付着しているかもしれないウイルスを手に付け、自分の体に取り込まないようにすることが必要で、手洗いが最も有効な対策になります。手に付いたウイルスを、石けんによって洗い流すことが最も有効です。外出から戻った時、トイレ使用後や、人が多く集まる場所から戻った後には、石けんでの手洗いを習慣づけてください。またアルコール消毒剤でもウイルスは不活化しますので、すぐに手洗いができない状況では推奨できます。
PROFILE
株式会社健康予防政策機構
代表 岩﨑 惠美子
新潟大学医学部卒業後、耳鼻咽喉科医師を経て、インド、タイ、パラグアイで医療活動を行う。1998年より、厚生労働省、成田空港検疫所、企画調整官仙台検疫所長を歴任。その後、WHOの要請でウガンダ現地にてエボラ出血熱の診療・調査に従事。またSARS発生時には日本代表として世界会議に出席。2007年からは仙台市副市長に就任。インフルエンザ対策として「仙台方式」を提唱し、日本の新型インフルエンザ対策の基盤を構築する。現在は、感染症対策のプロとして、新型インフルエンザをはじめとする感染症対策の啓発活動を行っている。