No.6 災害時の感染症対策
この8月には日本各地で大雨による災害が発生しましたが、これからの季節は、台風や秋雨などによる水害や土砂災害が発生しやすい時期を迎えます。大規模な災害時の避難所では、電気・ガス・水道などのライフラインの遮断や物資の不足、また、不慣れな集団生活により、感染症が発生しやすい状況になるものの、平時に比べ感染症の予防対策を十分に実施することが難しくなります。今回は、東日本大震災の経験を交えながら、災害時の感染症対策についてお伝えいたします。
株式会社健康予防政策機構 代表・医師 岩﨑 惠美子
東日本大震災の経験より
災害時に注意する感染症
災害時に注意する感染症は、まずノロウイルスによる感染性胃腸炎ですが、寒い時期ではインフルエンザが避難所で起こりやすくなります。ノロウイルスやインフルエンザは、手洗いができないために広がりやすいということも大きな要素で、「手洗い」が最も重要な感染対策です。水が使えれば石けんを用いて手洗いをしますが、水が無い状況では、ウエットティッシュで手を拭いたり、アルコール消毒をします。手洗いの水がなくても衛生対策のできる物資の備えは有用です。
夏場は水溜りなどから蚊が発生し、日本脳炎が起こったり、残飯などがあればネズミが発生します。ネズミのフンの中には、レプトスピラ症やハンタ腎出血性症候群などを起こすウイルスが含まれていることがあります。これらの予防には、避難所周辺の水溜りをなくし、残飯等は適切に処分するなど、環境を清潔に保つことが必要です。
災害初期
避難場所での感染症
- インフルエンザ
- ノロウイルス
- 呼吸器疾患(風邪など)
+粉塵による喘息などの呼吸器疾患の悪化 - ケガ、転倒などによる感染症
土壌中の病原体による感染症
- 破傷風
- レジオネラ症
数週間後
- 水溜りに蚊などが繁殖 → 日本脳炎
※国内では夏期限定 - 食料品、ゴミ、瓦礫などの中でハエが発生
- 食べ物のゴミなどでネズミが繁殖
→ レプトスピラ症、ハンタ腎出血性症候群
災害時の感染症対策に備えるためには、衛生物資を備蓄するだけでは、いざという時に効果的に使用することができません。日頃から感染症について正しい知識を持ち、感染症対策を実践し、衛生物資の使用方法やその効果を知っていることが重要です。
PROFILE
株式会社健康予防政策機構
代表 岩﨑 惠美子
新潟大学医学部卒業後、耳鼻咽喉科医師を経て、インド、タイ、パラグアイで医療活動を行う。1998年より、厚生労働省、成田空港検疫所、企画調整官仙台検疫所長を歴任。その後、WHOの要請でウガンダ現地にてエボラ出血熱の診療・調査に従事。またSARS発生時には日本代表として世界会議に出席。2007年からは仙台市副市長に就任。インフルエンザ対策として「仙台方式」を提唱し、日本の新型インフルエンザ対策の基盤を構築する。現在は、感染症対策のプロとして、新型インフルエンザをはじめとする感染症対策の啓発活動を行っている。