企業の感染対策コラム

No.13 人が集まることで起こる感染症

2019年の秋にはラグビーのワールドカップ、2020年の夏には東京オリンピック・パラリンピックと、これから多くの人びとが集まるイベントが国内で開催されます。このように多くの人が集まることで、国際交流が進んだ現代では国外から感染症が持ち込まれることや、感染症が発生した場合は急速に広がることが懸念されます。
今回は皆様のご質問にお答えする形で、多くの人が集まることで起りやすい感染症とその対策についてお伝えしていきます。大規模で国際的なイベントにおける感染対策であっても、平時の対策の延長線上にありますので、正しい知識を身につけ、日頃から感染対策を行いましょう。

株式会社 健康予防政策機構 代表・医師 岩﨑 惠美子

Q&A

Q1

大きなイベントなどをきっかけに多くの人が集まると、なぜ感染症は起こりやすいのですか?

国際的で大きなイベントを控えた今、マスギャザリング(mass gathering)における感染症対策に関心が集まっています。マスギャザリングとは、日本集団災害医学会により「一定期間、限定された地域において、同一目的で集合した多人数の集団」と定義されています。
感染症を起こす病原体は、人を介して感染を広げていきます。人が病原体を持ってくる、言わば人が感染症の運び屋になってしまうということです。人が多く集まるほど、何らかの感染症に感染している人が存在する可能性や、感染が広がるリスクは高まります。
特に世界中から人が集まる国際的なイベントでは、海外で流行している感染症が国内に持ち込まれるおそれが十分にあります。季節、気候、環境、文化、衛生状態等によって、それぞれの地域で流行している感染症は異なるため、様々な国から人が集まると、自国や経由地等その国々で流行している感染症が、人を介して国内に入ってくる可能性があります。

マスギャザリング

国内で起こった感染症の主な事例

2011年

東日本大震災で、海外からのメディア関係者が麻疹(はしか)にかかり、小規模ではあったが流行が発生した。
このメディア関係者は、海外で感染し、入国したと考えられており、症状が現れていても取材を実施していた。

2014年

代々木公園を中心に、都内の公園等で蚊に刺されたことによるデング熱患者が発生した。
人が多く集まったり、イベントが開催される都内の公園が流行の発端となった。

2015年

山口県で開催された世界スカウトジャンボリー(162の国と地域から約3万人)の参加者4人が髄膜炎菌感染症を発症した。
発症者は海外からの参加者で、開催中に感染し、帰国途中もしくは帰国後に発症した。国内の発症者は認められなかった。

Q2

2020年東京オリンピック・パラリンピックで注意すべき感染症は何ですか?

●インフルエンザ

夏季に開催されますが、この時期、南半球では冬季にあたるため、南半球で流行したインフルエンザウイルスが国内に持ち込まれ、流行を起こす可能性があります。

●デング熱など、蚊が媒介する感染症

夏季は蚊が媒介する感染症が流行する時期です。熱帯・亜熱帯地域では、日本脳炎、デング熱などの蚊が媒介する感染症は日常的に発生しています。流行している国でウイルスを持つということもありますが、流行地から来航する航空機にウイルスを持った蚊が紛れ込んで国内に入ってくる可能性もあります。

デング熱など、蚊が媒介する感染症
(蚊は産卵するために吸血する。まず空港周辺の鳥が蚊に刺され、ウイルスを持ち、その鳥を国内に生息している蚊が吸血することで、ウイルスが広がっていく。)

●風疹・麻疹(はしか)・流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)・結核

海外の国々で日常的に流行している感染症は、国内に入ってくる可能性が高いと考えられます。

Q3

感染症にかからないためには、どうすればよいですか?

●感染者の排泄物には病原体が排出されます。嘔吐物、便、咳をした際の飛沫や痰、鼻水等にも病原体は含まれています。

感染症は病原体が体に入って病気を起こすので、自分の体に病原体を入れないためには、それらを触れた手で口や顔を触らないようにすることです。手を介するわけですから、手洗い・手指消毒が最も重要な対策です。また、嘔吐物等を適切な方法で消毒し、処理することも感染を広げないためには大切なことです。

●予防接種法に定められた基本的なワクチン接種を実施し、病原体に対する免疫を持つようにしましょう。

現在流行が問題となっている麻疹や風疹は、ワクチンを接種してから時が経つと、ワクチンの効果を示す抗体価が低下していくため、病院で抗体価を調べ、低ければワクチンを接種しましょう。

●感染者の咳やくしゃみをした際の飛沫には病原体が含まれているため、周囲の人を感染させないように、咳やくしゃみが出るときには、マスクを着用しましょう。

●うがいをすることで、のどの粘膜に十分な湿分を補給し、粘膜の働きが弱まるのを防ぎましょう。

グローバル化が進んだ現代社会では、国際的な大規模イベントの開催に限らず、海外から国内に感染症が持ち込まれるおそれが常にあるため、日頃から手洗い等の感染対策に努めましょう。

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PROFILE

株式会社健康予防政策機構

代表 岩﨑 惠美子

岩﨑先生新潟大学医学部卒業後、耳鼻咽喉科医師を経て、インド、タイ、パラグアイで医療活動を行う。1998年より、厚生労働省、成田空港検疫所、企画調整官仙台検疫所長を歴任。その後、WHOの要請でウガンダ現地にてエボラ出血熱の診療・調査に従事。またSARS発生時には日本代表として世界会議に出席。2007年からは仙台市副市長に就任。インフルエンザ対策として「仙台方式」を提唱し、日本の新型インフルエンザ対策の基盤を構築する。現在は、感染症対策のプロとして、新型インフルエンザをはじめとする感染症対策の啓発活動を行っている。