No.4 大人も子どもも麻しん(はしか)に注意!
麻しんとは?
麻しんは、麻疹ウイルスによって引き起こされる感染症です。感染力はきわめて強く、症状は、高熱、発疹が特徴です。麻しんで最も注意しなければならない点は、さまざまな重篤な合併症を引き起こすことです。特に乳幼児が麻しんにかかった場合は、合併症で死亡する例も少なくありません。合併症の中には深刻な後遺症を残すものもあり、合併症を避けるために、厚生労働省では、1歳になったらすぐに麻疹ワクチンを受けることを勧めています。現在、日本はWHOから麻しん排除国として指定されていますが、近隣の国々では、まだまだ日常的に発生しています。ワクチンを接種していない人がそれらの国へ出かけた場合に、現地で感染し、帰国後に国内で感染を広げるケースが見られています。いろいろな地域から、旅行者が日本にやって来る現代社会では、それらの人を通して、感染症が持ち込まれる可能性は増えています。
疫学
麻しんは世界中で流行を繰り返していました。しかし、麻疹ワクチンが普及した1980年代頃から、麻しんに感染して死亡する人も減りました。日本では先進国のなかでも、麻疹ワクチンの普及が遅れていたため、1990年に入っても流行は見られていましたが、2008年から時限措置でMRワクチン(麻疹・風疹混合ワクチン)接種が実施された結果、ワクチン接種率が向上し、麻しんの流行は著しく減少しました。しかしながら2014年にはフィリピンなどのアジア諸国からの輸入例(流行国からの感染者の渡航)で報告数は増加し、2016年には、関西国際空港を利用した入国者を起点とした輸入例などが見られました。
症状
麻疹ウイルスに感染後、10日から12日の潜伏期間を経て、発熱、咳などを伴い発症します。38度前後の発熱が2~4日間続き、倦怠感、咳・鼻水などの上気道の炎症症状、結膜炎症状が続きます。乳幼児では下痢・腹痛などの消化器症状を示す事例もあります。この段階で特徴となる「コップリック斑」(口腔内の頬の裏側に白色の小さな斑点)が現れます。その後、再び発熱するとともに鮮紅色の発疹が体表全体に現れ、発疹・発熱や上気道の症状、結膜炎はひどくなりますが、これらの状態が3~4日続いた後解熱し、症状は軽快していきます。
合併症
全体の約30%が合併症を引き起こすと言われています。最も多い合併症は肺炎ですが、比較的頻度の高い合併症としては中耳炎などがあります。中耳炎を起こすと難聴になることもあります。また、頻度は高くないものの脳炎を合併することもあります。ほかに懸念される合併症としては、心筋炎、クループ症候群(喉頭の炎症により、犬の吠えるような咳や、声のかすれ、吸気性喘鳴、呼吸困難などの症状を示す)等や、麻しんにかかった数年後に発生する亜急性硬化性脳症などの中枢神経疾患があります。
感染経路
感染経路は、飛沫、接触、空気感染です。口の中に潰瘍ができ、口の粘膜や唾液の中にウイルスが含まれるため、飛沫により感染します。また、その飛沫を触った手を介した接触感染による場合もあります。さらに、感染力が非常に強く、感染者と同じ部屋に長時間いると感染することもあり、空気感染の可能性もあります。他者へ感染させる恐れは、発疹が出る1日前から、発疹出現後4~5日位までです。麻疹は、学校保健安全法により、学校感染症 第二種※に指定され、出席停止期間は解熱した後3日を経過するまでとされています。
※第二種...空気感染又は飛沫まつ感染するもので、児童生徒等の罹患が多く、学校において流行を広げる可能性が高い感染症
麻しんの予防方法
麻しんの感染経路はインフルエンザの感染経路と似ており、飛沫、接触感染対策が大切ですから、手洗いが有効です。麻疹ウイルスはエンベロープを持つウイルスのため、消毒薬は比較的効きやすく、手指消毒や手が頻繁に触れる箇所の環境清浄などでは、アルコール製剤が使いやすく、効果的です。
しかし、麻しんは、手洗いやマスク着用のみでは予防することができず、何よりもかからないためには、ワクチン接種しかありません。現在日本では、麻疹と風疹の混合ワクチン(MRワクチン)が定期接種に導入され、第1期は1歳時、第2期は小学校入学直前の1年間としており、「MRワクチンを1歳のお誕生日のプレゼントにしましょう」「小学校入学準備に2回目のMRワクチンを!」というキャンペーンを行っています。1回のワクチンだけでは、私たちの体の中で、麻しんに対する十分な抗体が作られません。必ず2回接種をしてください。
今の日本は、グローバル化した社会にあります。関西国際空港の集団感染の事例のように、麻しんが流行している国々から感染者が渡航してくる可能性もあります。まだワクチンを1回しか受けていない方も多くいます。そういう方にはもう一度、麻しんのワクチンを受けていただきたいと思います。
PROFILE
株式会社健康予防政策機構
代表 岩﨑 惠美子
新潟大学医学部卒業後、耳鼻咽喉科医師を経て、インド、タイ、パラグアイで医療活動を行う。1998年より、厚生労働省、成田空港検疫所、企画調整官仙台検疫所長を歴任。その後、WHOの要請でウガンダ現地にてエボラ出血熱の診療・調査に従事。またSARS発生時には日本代表として世界会議に出席。2007年からは仙台市副市長に就任。インフルエンザ対策として「仙台方式」を提唱し、日本の新型インフルエンザ対策の基盤を構築する。現在は、感染症対策のプロとして、新型インフルエンザをはじめとする感染症対策の啓発活動を行っている。