No.21 子どもと新型コロナワクチン
流行が始まった当初、子どもの新型コロナ患者数は少なく、重症化の頻度も低いと考えられました。ところが変異ウイルスの出現により、子どもの罹患は増えました。2021年夏に第5波として全国に拡大したデルタ株では保育所や学校でのクラスター、家族内の感染が数多く報告されました。
川崎医科大学 総合医療センター 小児科 部長(教授)中野 貴司
子どもにとっての新型コロナのリスク
子どもの患者が増えれば、一定の頻度で重症者が発生するので油断できません。また、基礎疾患(持病)のある子どもでは重症化のリスクが高いとされます。神経疾患、脳性麻痺、慢性肺疾患、慢性心疾患、ダウン症候群など染色体異常症、悪性腫瘍や移植などによる免疫不全状態、高度肥満などが高リスクと考えられています1)。
また、ウイルス感染後数週間以上を経て発症する「小児多系統炎症性症候群( Multisystem Inflammatory Syndrome in Children (MIS- C))」は、心臓など多臓器に影響が及ぶ重篤な病態です2)。
接種できる年齢とワクチン
2021年9月末時点で、国内で新型コロナワクチンの接種対象となるのは12歳以上の者です。11歳以下の年少児に接種できるワクチンはまだありません。12歳以上であれば、2種類(ファイザー社と武田薬品/モデルナ社)のmRNA(メッセンジャーRNA)ワクチンを接種できます。
期待できる効果
ワクチンには、病気にかかることや重症化を防ぐ効果があります。また、自分 がかからなければ周囲の人に感染させるリスクを減らすことも期待できます。 ファイザー社ワクチンを12~15歳の海外の子どもに2回接種後、ワクチン接種群1,119人で新型コロナウイルス感染症を発症したのは0人だったのに対して、プラセボ群(ワクチンを接種していない人)1,110人では18人が発症しました3)。接種後の中和抗体価は、16~25歳と比べて12~15歳でも劣らない値でした3)。
武田/モデルナ社ワクチンでは、12~17 歳の海外の子どもに2回接種後、ワクチン接種群 2,139人で新型コロナウイルス感染症の発症は0人だったのに対して、プラセボ群1,042人では4人でした4)。12~17歳の接種後中和抗体価は、18~25歳に劣らない値でした4)。
副反応について
ワクチン接種部位の痛みや、発熱、からだのだるさ、頭痛などがおとなでは若年層で頻度が高いと報告されています。したがって、子どもに接種した場合も、一定の頻度でこれらの症状が出現することが想定されます。これらの副反応のほとんどは、接種翌日までに出現し、通常は数日以内に軽快します。症状に我慢できなかったり、2~3日を超えて症状が続く場合は、接種した医療機関、かかりつけ医療機関、もしくは地域の新型コロナワクチン相談窓口に相談しましょう。
日常使い慣れた解熱鎮痛薬を使用することは問題なく、子どもではアセトアミノフェンを使用する場合が多いです。また、学校が休みとなる前日に接種を行うなどの配慮も有用です。
頻度はまれな副反応ですが入院治療が必要となる心筋炎/心膜炎は、おとなでは思春期から若年男性に多いとされます。また、1回目より2回目接種後の1週間以内が多いです。今のところ、心筋炎/心膜炎を発症しやすい体質や要因はよくわかっていません。胸の痛み、息切れ、動悸(心臓がドキドキする)などの症状が出た場合は医療機関に相談しましょう。
接種の判断に際して
接種は義務ではありません。ワクチンのメリットと起こり得るデメリットについて本人と保護者が十分理解した上で、接種に同意した人が接種します。適切な判断のためには、わからないことがあれば納得できるまで情報を得ることが大切です。
また、子どもと十分なコミュニケーションを相互に行うように努めましょう。子どもの多様性に配慮すること、子ども自身が考え、意思を伝えることができる環境を整えることも大切です。下記の厚労省のサイト5)もご参照ください。
PROFILE
川崎医科大学 総合医療センター 小児科
部長(教授) 中野 貴司
1983年信州大学医学部卒業、1983年三重大学医学部付属病院小児科研修医、1984年尾鷲総合市民病院小児科、1985年国立療養所三重病院小児科、1987年ガーナ共和国野口記念医学研究所派遣(2年間)、1989年三重大学医学部小児科、1995年国立療養所三重病院小児科(この間、中国ポリオ対策プロジェクトへ1年間派遣)、2004年4月 独立行政法人化により"国立病院機構 三重病院"と改称、2010年7月 川崎医科大学小児科教授、現在に至る。