子供の感染対策コラム

No.19 冬だけじゃない!

~春から初夏に流行する感染症について~

新年度が始まりました。入学や入園など初めて集団生活を送るようになったり、新しい環境での生活が始まる子どもたちも多いと思います。そんな子どもたちにとってこの時期は、友人や環境ばかりでなく、感染症の病原体とも新たに遭遇する機会でもあります。今回は、昨今の感染症の流行状況と春から初夏に流行する感染症について解説します。

川崎医科大学 総合医療センター 小児科 部長(教授)中野 貴司

新型コロナウイルス流行の影響

 学校や保育所でしばしば集団発生がみられ、毎冬子どもたちの患者数が多いインフルエンザですが、最近2シーズンの冬季は大きな流行が認められませんでした。特に今冬は、国内でほとんどインフルエンザ患者が報告されない状況でした。

 新型コロナウイルス感染症に対する予防策として、皆が手洗いや咳エチケットを心がけたこと、「密」になることや他人との接触を回避したことにより、病原体が人から人へ伝播する機会が減り、新型コロナウイルス以外の感染症が減少したと考えられます。インフルエンザ以外にも、ロタウイルス胃腸炎や手足口病など子どもがかかる感染症について、この1年間は患者数の少ない状態が続いています。

感受性者の集積に注意

 ただし、様々な感染症の患者数が減ったことに喜んでばかりいるわけにはいきません。病気にかかるということは、その病原体に対する免疫がつく場合も多いのです。たとえば麻疹や風疹は、一度かかれば免疫がついて、再度かかることは通常ありません。また、何回かかかるうちにだんだん軽症化する感染症としてRSウイルスやロタウイルスが知られています。かかることで身体に免疫ができて、重症化しなくなると考えられています。

 そんな中、子どもたちにおいて、最近季節外れの患者増加がみられている病気があります。それはRSウイルス感染症です。

 例年は9月頃をピークとする発生でしたが、2020年は全国的にはほとんど流行が認められませんでした。しかし昨年終盤から2021年にかけて九州各県や沖縄県で患者が増加し、3月には大阪府や岩手県でも増加傾向となりました。
 南半球にあり日本とは季節が逆転しているオーストラリアでは、2020年は例年流行のみられない9月後半から RSウイルス感染症が増え始め、年末にかけて患者数が著増しました。患者年齢が従来より年長にシフトしており、 新型コロナウイルスによる行動自粛などの影響で感染者が一定期間著減し、免疫を持たない感受性者が増加集積 した可能性が下記の論文で指摘されています。

【Foley DA, et al. The Interseasonal Resurgence of Respiratory Sy ncytial Virus in Australian Children Following the Reduction of Coronavirus Disease 2019-Related Public Health Mea sures. Clin Infect Dis. 2021 Feb 17 】

春から初夏に注意する感染症は?

すべての感染症が感受性者の増加という理由のみで流行するわけではないですが、新型コロナウイルスの影響により感染症の流行状況が変化した昨今、以前からあった感染症のことを忘れてはいけません。それらの中には、子どもたちがかかりやすい病気や、時には合併症を起こしたり重症化する病気もあります。
  例年、春から初夏に流行しやすい病気としてA群溶連菌感染症や咽頭結膜熱があります。昨年は全国一斉休校の影響もあり、この時期の患者は少ない状況でした。しかし今年は、子どもたちの生活上の制限は昨年と比べて緩和されており、流行に注視する必要があります。

A群溶血性レンサ球菌感染症

 A群溶血性レンサ球菌という細菌により、咽頭炎や扁桃腺炎を起こします。合併症として、数週間後にリウマチ熱や腎炎をおこすこともあります。治療薬としては抗菌薬が有効です。感染してから発症するまでの潜伏期間は2~5日で、感染経路は飛沫感染や接触感染です。予防のためには、手洗いなどの感染症に対する一般的な予防対策の励行が大切です。

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PROFILE

川崎医科大学 総合医療センター 小児科

部長(教授) 中野 貴司

中野先生1983年信州大学医学部卒業、1983年三重大学医学部付属病院小児科研修医、1984年尾鷲総合市民病院小児科、1985年国立療養所三重病院小児科、1987年ガーナ共和国野口記念医学研究所派遣(2年間)、1989年三重大学医学部小児科、1995年国立療養所三重病院小児科(この間、中国ポリオ対策プロジェクトへ1年間派遣)、2004年4月 独立行政法人化により"国立病院機構 三重病院"と改称、2010年7月 川崎医科大学小児科教授、現在に至る。


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