No.18 集団生活を行う上で必要な感染対策
学校や保育園など集団生活の場において、従来から感染対策はとても大切な位置付けにあります。インフルエンザシーズンは時に学級閉鎖が行われ、高校や大学で麻しんが流行したこともありました。また、昨今の大きな関心事は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対策です。
川崎医科大学 総合医療センター 小児科 部長(教授)中野 貴司
子どもはおとなに比べてCOVID-19にかかりにくい?
中国の武漢市で、家族内の感染を解析した研究があります1)。発端となった105人の患者とその家族392人をフォローアップした結果、家族内感染は16.3%で認められましたが、成人の二次感染患者17.1%に比べて、小児の二次感染患者は4%と少数でした。
イスラエルでも、13家族を対象に家族内感染を調査した研究があります2)。発端患者を除く家族全員にPCR検査を行って、陽性率を検討しました。18歳以上の陽性率は58.3%(21/36)、5~17歳では32.5%(13/40)、5歳未満は11.1%(2/18)でした。子どもの中でも、年少児ほど感染率が低いという結果でした。
COVID-19の病原体ウイルスは、呼吸器粘膜細胞表面のangiotensin-converting enzyme 2 (ACE2)にくっついて感染すると言われます。子どもがかかりにくい理由として、子どもでは細胞表面のACE2が少ないからとする研究3)がありますが、さらに詳細な事項については解明されていません。
子どもが感染源になる可能性は?
子どものCOVID -19感染者が、他人への感染源になりにくいかどうかは、まだよくわかっていません。子どもの発症は少ないわけですから、病原体が周囲へ飛び散る原因のひとつとなる咳は、おとなと比べれば少ないと考えられます。しかし、年齢にもよりますが、上手にマスクをできない子どもは多いですし、泣いたり、大きな声を出すことはしばしばです。また、年少児は年長者と比較して、症状を呈する頻度は低いですが、排出するウイルス量は多いとする研究4)もあります。
しかし幸いに、子どもが発端者となって感染が拡大した事例は、これまでにあまり報告されていません。韓国では、小児発端患者107名について、その家族248名を追跡した研究5)がありますが1名の感染者のみでした。
学校生活における注意事項
以上より、子どもがCOVID-19にかかったり、感染を拡大する原因となる可能性は、おとなに比べれば高くないと推察されます。そして、学校生活は子どもの成長発達には不可欠なものであり、その体験を経て地球の未来を担えるようになるのです。
ただし、国内での感染拡大にともない、学校におけるクラスターもときおり報告されています。これからの方向性としては、十分な感染対策を講じた上で、学校生活を継続していくことが望ましいと考えます。実際に、日本より大きな流行が認められている海外において、店の営業や外出には制限を課しても、学校への通学は通常に継続している国が多いのが現状です。
それでは、学校生活で必要な注意事項とはどんなことでしょうか。本コラムNo.166)でも述べましたが、以下の事項を再度強調しておきます。
①「密」(密閉空間・密集場所・密接場面)の回避
② 基本的な感染症対策(手洗い・手指消毒・可能ならマスク)
③ 適切な環境清掃(次亜塩素酸ナトリウム・消毒用エタノール)
そして、体温や風邪症状に注意して、体調のすぐれないときは早めに休むようにしましょう。また、患者や家族を守るという共通認識を持って、誹謗や中傷は絶対にやめましょう。
6) SARAYA 感染と予防 子供の感染対策コラム No.16「新型コロナウイルス対策をふまえての学校生活再開に向けて」(2020年5月22日)
PROFILE
川崎医科大学 総合医療センター 小児科
部長(教授) 中野 貴司
1983年信州大学医学部卒業、1983年三重大学医学部付属病院小児科研修医、1984年尾鷲総合市民病院小児科、1985年国立療養所三重病院小児科、1987年ガーナ共和国野口記念医学研究所派遣(2年間)、1989年三重大学医学部小児科、1995年国立療養所三重病院小児科(この間、中国ポリオ対策プロジェクトへ1年間派遣)、2004年4月 独立行政法人化により"国立病院機構 三重病院"と改称、2010年7月 川崎医科大学小児科教授、現在に至る。