No.15 新型コロナウイルス、今できる予防策
ー 基本は通常の感染症対策にありー
2019年12月に中国湖北省武漢市で発生した新型コロナウイルス感染症は、その後、日本を含めた世界中で大きな問題となっています。私たちは、この新たな病原体からどのように身を守ればよいでしょうか。状況は時々刻々変化しますが、現状でわかっていることをもとに解説します。
川崎医科大学 総合医療センター 小児科 部長(教授)中野 貴司
新型コロナウイルスとは
コロナウイルスという病原体は、以前から知られていました。しかしそれは、重い病気ではなく、一般の感冒(かんぼう、いわゆる"カゼ")の原因としてでした。数日から1週間程度で治る"カゼ"ですから、それほど注目されていませんでした。
ただし、これまでにも、重い病気を引き起こすコロナウイルスが新たに出現したことがあります。それは2002年末に中国広東省から始まり半年にわたって各国で患者が発生したSARSコロナウイルス、2012年にサウジアラビアでの発生が第1例とされるMERSコロナウイルスです。両ウイルスとも、今回同様、動物のコロナウイルスが変異してヒトで流行したとされています。
これら2つの病気は、幸い日本での流行はありませんでした。したがって私たちは、コロナウイルスに対する危機感に乏しかったかもしれません。しかし、グローバル化が進んだ現代、世界のどこかで発生した感染症は決して他人事ではないことを、今回の新型コロナウイルスによって再認識することになりました。
子どもと新型コロナウイルス
子どもは、通常のコロナウイルスに感染して、"カゼ"をひくことがしばしばあります。年少児の方が頻度は高く、成長するにつれて減少します。自然に治る"カゼ"の病原体について、わざわざ詳しく調べられたことはあまりなく、大人との違いや、子どもの中でも年齢による差違の詳細は不明です。
一方、SARSやMERSなど恐ろしいコロナウイルスが過去に流行した際に、子どもが重症化した例はとても少ないのです。今回の新型コロナウイルスでも、国内外で子どもの重症者は今のところあまり報告されていません。この理由は未だ解明されていませんが、子どもと大人の免疫の力や働きが異なることが関係しているかもしれません。もちろん、新型コロナウイルスの流行が始まってまだ日が浅いので、これから重症者が報告される可能性もあり油断してはいけません。
2009年の"新型"インフルエンザとの違い
2009年春先に北米で流行が感知され、その後世界へ拡大したインフルエンザA(H1N1)pdm09ウイルスは、元々はブタ由来のウイルスが変異してヒトからヒトへ伝播する病原体となったものでした。発生当時は"新型"インフルエンザと呼称され、人類は恐怖におののきました。実際、病初期から呼吸不全をきたす例など、世界中で多くの重症者が発生しました。
同じ"新型"でも、2009年のインフルエンザと今回のコロナウイルスの相違点は何でしょうか?まず、インフルエンザには抗インフルエンザウイルス薬という治療手段がありますが、コロナウイルスに対して治療薬はありません。
また、" 新型"インフルエンザが出現した時、そのウイルスに対するワクチンはありませんでしたが、「インフルエンザウイルス」に対するワクチンはあり、そのノウハウを元に私たちはA(H1N1)pdm09ウイルスに対するワクチンを短期間で製造することができました。さらに、2009年はすでにインフルエンザ迅速診断検査が広く使われていましたが、今回のコロナウイルスに対しては手軽な診断法がまだありません。
今できる新型コロナウイルス対策
現状で治療薬や予防ワクチンの無いこの病気に対しては、感染症全般に対する対処策で臨むことになります。マスクは、咳エチケットという観点から有効な予防手段ですが、供給不足が問題となっており、適正使用を心がけたいと思います。また、誰でも、どこでもできる予防策は、手洗いと手指衛生です。医療機関や公共施設などでは、速乾性手指消毒薬を上手に使いましょう。
また、日本は、世界で一番贅沢に、どんな場所でも清潔な水が入手できる国です。手洗いの励行を、日常からの予防行動の習慣として、今こそ皆が身につけるべき時です。
PROFILE
川崎医科大学 総合医療センター 小児科
部長(教授) 中野 貴司
1983年信州大学医学部卒業、1983年三重大学医学部付属病院小児科研修医、1984年尾鷲総合市民病院小児科、1985年国立療養所三重病院小児科、1987年ガーナ共和国野口記念医学研究所派遣(2年間)、1989年三重大学医学部小児科、1995年国立療養所三重病院小児科(この間、中国ポリオ対策プロジェクトへ1年間派遣)、2004年4月 独立行政法人化により"国立病院機構 三重病院"と改称、2010年7月 川崎医科大学小児科教授、現在に至る。