No.13 子どもの感染症Q&A①
今回は、子どもの感染症についての疑問や、日頃気になることをQ&A形式で紹介します。日常の感染症対策にお役立ていただければ嬉しいです。
川崎医科大学 総合医療センター 小児科 部長(教授) 中野 貴司
Q&A
Q1
発疹が出たのですが、蕁麻疹(じんましん)なのか感染症なのか分かりません。対処方法を教えてください。
「蕁麻疹(じんましん)は、子どもでも時々出ます。皮膚の一部が急に盛り上がり(膨疹)、色調は赤みを帯びていますが、肌の色とあまり変わらないこともあります。膨疹の大きさは数mm程度から、手足全体に広がる大きなものまであります。形も様々で、円形や楕円形、線状や地図状の場合もあります。原因は、食物などアレルギーが原因のこともあれば、入浴や運動などで体が温まった時に出る蕁麻疹(じんましん)もあります。蕁麻疹(じんましん)の特徴は、痒みをともなうことが多いこと、また、しばらくすると跡形も無く消えてしまうことです。
消えるまでの時間は様々で、数十分から数時間以内に消えることが多いですが、半日から1日程度続くものもあります。治療として、原因があればそれを取り除くこと、また、薬剤は抗ヒスタミン薬が有効です。
一方、感染症で出現する発疹は、病原微生物の感染によるひとつの症状です。したがって、他の症状をともなう場合がしばしばです。溶連菌感染症では咽頭痛(ノドの痛み)や発熱、麻疹(はしか)では発熱や咳などです。また、感染症は子どもたちの間で流行しやすいので、周囲に同じような症状の子どもがいる場合は感染症の可能性が高いです。手足口病や伝染性膿痂疹(とびひ)などが、これに該当します。治療法は、原因となっている感染症によって異なります。
表 「蕁麻疹(じんましん)」と「感染症による発疹」の比較
蕁麻疹(じんましん) | 感染症による発疹 | |
---|---|---|
特徴 | ・痒みをともなう ・一定時間すると消失する |
・発熱など他の症状をともなう ・周囲に同症状の者がいる |
治療 | ・原因があれば取り除く ・抗ヒスタミン薬 |
・原因の感染症に対する治療 |
Q2
嘔吐や下痢の原因について、見極めるポイントはありますか。また、便や嘔吐物を処理する場合に気を付けることがあれば教えてください。
子どもの嘔吐や下痢の原因で最も多いのは、感染性の胃腸炎です。感染性胃腸炎には、季節による特徴があります。高温多湿の夏季は、細菌性の食中毒に最も注意が必要です。腸管出血性大腸菌O157、サルモネラ、カンピロバクター、腸炎ビブリオなど原因となる細菌の名前をご存知の方も多いでしょう。細菌性腸炎では、腹痛が強い場合が多く、血便(便に血液が混じること)を認めることもあります。
一方、これから向かう寒い季節には、ウイルスによる感染性胃腸炎が猛威を振るいます。ロタウイルスやノロウイルスが知られていますが、昨今、日本各地で、ノロウイルスの集団発生が報告されています。ごく少量のウイルスが体内に入っただけで発症することや、各種消毒薬に抵抗性であることは、感染が拡大しやすい理由といわれます。糞便が感染源であることはよく知られていますが、ノロウイルスは嘔吐物の中にも存在します。
ノロウイルスに対して、アルコール(エタノール)や逆性石鹸(塩化ベンザルコニウム)の消毒効果は低く、塩素消毒液(次亜塩素酸ナトリウム)を使うとよいとされます。家庭用の塩素系漂白剤でも代用可能ですが、濃度に注意が必要です。
また、使用時には有毒ガスの発生や金属腐食性に注意します。おもちゃは、流水で十分に洗ったり、きれいに拭くなどの対処になると思います。吐物が付いた食器は、洗剤で十分に洗浄し、熱湯で加熱する方法も有効です。
Q3
咳や鼻水が出ていますが、普段どおりの生活ができているため病院を受診するか迷います。登校(園)の判断基準も教えてください。
軽い症状の時に医療機関の受診が必要か不要かは、なかなか難しい判断ですね。2つのポイントで決めてはいかがでしょうか。ひとつは病気に罹ったその子が、重くならないかどうかです。初期は軽い症状でも、その後に増悪や合併症をきたすことがあるので、症状が進行したり、いつもと様子が異なる場合は、受診して相談されてはいかがでしょうか。もうひとつのポイントは、他人に病気をうつさない心がけも大切です。うつりやすい感染症の可能性がある場合は、正しい診断を受けるためにも医療機関を受診しましょう。
登校(園)の判断基準についても、かかった本人の症状が重くならないかと、他人に病気をうつさないかという2つの観点から判断してはいかがでしょうか。学校や幼稚園・保育園など集団生活における感染症に対する注意事項や、疾患ごとの出席停止期間の基準については、本コラム「No.3 感染症による出席停止期間」で解説していますので参考としてください。
PROFILE
川崎医科大学 総合医療センター 小児科
部長(教授) 中野 貴司
1983年信州大学医学部卒業、1983年三重大学医学部付属病院小児科研修医、1984年尾鷲総合市民病院小児科、1985年国立療養所三重病院小児科、1987年ガーナ共和国野口記念医学研究所派遣(2年間)、1989年三重大学医学部小児科、1995年国立療養所三重病院小児科(この間、中国ポリオ対策プロジェクトへ1年間派遣)、2004年4月 独立行政法人化により"国立病院機構 三重病院"と改称、2010年7月 川崎医科大学小児科教授、現在に至る。