子供の感染対策コラム

No.20 新型コロナウイルス変異株の子どもたちへの影響

※掲載内容は6月17日時点のものです。

新型コロナウイルス「変異株」が、しばしば話題になります。ウイルスの性質が変化し、感染しやすさやワクチンの効果に影響が出るのではとの懸念も聞かれます。また、変異株の増加に伴い、保育所や学校でのクラスター発生が目立ってきていることも事実です。

川崎医科大学 総合医療センター 小児科 部長(教授)中野 貴司

変異株とは

 新型コロナウイルス感染症の病原体「SARS-CoV-2」はRNAウイルスで、ゲノム塩基には一定頻度で変異が起きています。この変異により、ウイルスのタンパク質を構成するアミノ酸に変化が生じます。アミノ酸が変化したウイルスがすべてはびこるわけではありませんが、その中に人から人へ効率よく伝播するウイルスが出現すると「変異株」と呼称されます。

アミノ酸の変化はウイルスのいろんな部位に起こり得ますが、スパイクタンパク質に関連したアミノ酸配列の変化は、ウイルスの感染しやすさやワクチンで誘導される抗体の中和作用に影響が出るとされます。

国内外の変異株の状況

 2020年終盤から、国内外で変異株の報告は相次ぎ、世界的な大流行、国内での第3波・第4波の患者数増加に関与したと考察されています。最初に検出された地名から英国型、南アフリカ型、ブラジル型、インド型などと当初は呼称されました。しかし世界保健機関(WHO)は、変異株の名称に国名を用いることは蔑視や差別の観点から適切ではなく、ギリシャ文字のアルファベットを使うと発表しました。英国、南アフリカ、ブラジル、インドで最初に確認された変異株は、それぞれ「アルファ株」、「ベータ株」、「ガンマ株」、「デルタ株」と名付けられました。

 国内において、海外とのリンクを追えない感染者から各種の変異株が検出され、すでに感染伝播は各地で発生しています。第3波・第4波の患者増加は、感染性の高いアルファ株の流行が影響したとされます。今後、国内で新たな変異株が発生する可能性もあります。

変異株が注目される理由

 変異したウイルスが従来のウイルスより感染しやすいと、短期間で患者数が急増します。その結果、医療機関は多くの新型コロナ患者を診療することになります。一定の頻度で重症者がでますから、診療に多くの医療資源が必要で、入院期間も長期となり、医療逼迫や医療崩壊につながります。新型コロナはもちろん、他の疾患の患者診療に支障が出たり、救急搬送の受け入れができなくなります。

また、変異によってウイルスの抗原性が変化すると、中和抗体活性が低下するという研究報告があります。従来のウイルスによる感染や現行のワクチン接種で獲得された免疫をすり抜けてしまう変異株が流行すると、ワクチンの有効性への影響や、一度罹ったことのある人が再感染するリスクが懸念されます。ただし幸いに、免疫を回避する変異株が広く認知された確証はまだなく、現在のワクチンは有効で、既罹患者の二度罹りも稀とされます。 それ以外の変異株への懸念として、これまで患者数が少なかった子どもにも感染しやすくなったのではと危惧する声が聞かれます。

変異株の子どもへの影響

 2021年前半に国内で流行したアルファ株は、従来のウイルスに比べて最高で約1.7倍の感染力があるとされ、子どもたちのクラスターも発生しました。ただし、同様の変異株が流行した英国ロンドンの報告で、特に子どもの患者が多かったということはなく、大人と子どもの感染者の比率は変異株の出現した前後で大きく変わりませんでした。ウイルスの感染力が増したことは事実ですが、大人と同様に子どもの患者も増えたと考えられています。

 また、変異株に感染した子どもが、より重い症状を示すわけではありません。子どもの感染者の多くは無症状から軽症で、従来の株と大きな相違はありません。頻度の高い症状として、発熱、せき、鼻水、下痢、頭痛などがあげられます。

 以上より、子どもにおける変異株に対する感染対策は、基本的にはこれまでと変わりがないと考えます。ただし、感染力が強い場合、感染対策が上手にできない年少児では感染拡大がより危惧されます。周囲の大人も含めて、日常からの予防行動に一層心がけることが大切です。

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PROFILE

川崎医科大学 総合医療センター 小児科

部長(教授) 中野 貴司

中野先生1983年信州大学医学部卒業、1983年三重大学医学部付属病院小児科研修医、1984年尾鷲総合市民病院小児科、1985年国立療養所三重病院小児科、1987年ガーナ共和国野口記念医学研究所派遣(2年間)、1989年三重大学医学部小児科、1995年国立療養所三重病院小児科(この間、中国ポリオ対策プロジェクトへ1年間派遣)、2004年4月 独立行政法人化により"国立病院機構 三重病院"と改称、2010年7月 川崎医科大学小児科教授、現在に至る。


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