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専門家コラム

小暮先生の現場の目

第7回:リスクプロファイルと刻み海苔事件から考えるノロウイルス食中毒対策

2018年も12月を迎え、いよいよノロウイルスの流行時期を迎えている。厚生労働省はノロウイルスによる感染症や食中毒防止のため、ホームページ等で予防対策の周知を進める他、全国の保健所を通じて飲食店などの食品事業者に指導を行っている。また、内閣府食品安全委員会は、2018年11月に「ノロウイルスによる食品健康影響評価のためのリスクプロファイル」(以下、「報告書」という。)を更新して公表している。

食品従事者は、自らがウイルス保有者にならないこと!

報告書によると、ノロウイルス食中毒は、カキ等の二枚貝を原因としたものも発生しているが、表1のとおり、事件の6~8割は調理従事者が発生要因となっている。しかも、ノロウイルスは、環境中の生残性が強く、少ないウイルス量でも感染し、下痢やおう吐の症状の出ない不顕性感染が生じること、症状が治まった後もウイルスを長期間排泄することが食中毒対策の徹底を難しくさせている。食品従事者としては、ノロウイルスの患者や保有者にならないことが、強く求められている。

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表1 ノロウイルス食中毒の発生要因

ノロウイルス食中毒の発生要因

「食品健康影響評価のためのリスクプロファイル~ノロウイルス~」(内閣府)を加工して作成

なお、報告書に示されている原因食品は表2のとおりである。食品従事者は、まずは生カキだけでなく、シジミ醤油漬、アサリ老酒漬など非加熱または不十分な加熱による二枚貝の喫食をしないよう注意が必要である。

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表2 2001~2017年のノロウイルス食中毒の原因食品例

2001〜2017年のノロウイルス食中毒の原因食品例

「食品健康影響評価のためのリスクプロファイル~ノロウイルス~」(内閣府)を加工して作成

トイレや手洗い設備の不備が事件の引き金に

この報告書の別添資料に、主な食中毒16事例について概要と汚染経路(推定含む)が記載されている(リスクプロファイル別添資料11)ので、表3のようにまとめた。16事例のうち、細菌性食中毒の発生が考えにくいパン類や刻み海苔で大規模な食中毒事件が発生している。何故水分の少ないパン類の発生が多いのかについても、ノロウイルスとの親和性について解明が待たれるところである。

特に、浜松市の食パンの事例では、手袋をして食パンの検品を行い1,000名以上の患者が発生している。ウイルス保有者が作業したとしても、1,000個以上の食パンを均一に汚染させるには、単に手指の汚染だけでなく、作業着などからの二次汚染も疑われている。ノロウイルス予防の手洗いでは、石鹸液による2度の手洗い+アルコール消毒が指導されている。一度汚染された作業着は、すぐには洗浄等ができないため着替えなければノロウイルスの除去が難しい。作業着だけでなく、吐物を清掃したモップなども、汚染源となるので十分な注意が必要である。表3を見ると、ノロウイルス食中毒を起こした施設の多くでトイレや手洗い設備に問題があり、また従事者におう吐や下痢といった症状が見られていたことがよくわかる。ほとんどの事件でも、トイレでの靴の履き替え、石鹸液や消毒液の設置、温水や自動給水装置、ペーパータオルの設置など手洗い設備の不備が事件の引き金になっていると推定されている。

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表3 主なノロウイルス食中毒事例とその推定要因

「食品健康影響評価のためのリスクプロファイル~ノロウイルス~」(内閣府)を加工して作成

おう吐症状ありながら作業。で、2,000名超もの患者発生

2017年1~2月、刻み海苔により4都府県の7施設で2,000名を超える患者が発生している。この事件では、東京都福祉保健局が表4のとおり3回の報道発表を行っているが、調査していた食品衛生監視員の機転で、刻み海苔が原因であることが解明されたといえる。立川市の事件発生前に和歌山県御坊市の小学校で700名を超えるノロウイルス食中毒事件があり、海苔を使用した「磯和え」が原因食品であったことから、海苔の販売者を確認したところ同一製品であることがわかり、原因究明が進んだ。(表5参照)東京都では、検食等の検査結果ではノロウイルスが検出されなかったが、調理施設に残っていた未開封の刻み海苔(2016.12に加工)を検査して、ノロウイルスが検出されたことから、販売者を管轄する大阪府に通知するとともに、報道発表して注意を喚起している。大阪府の調査で、海苔の加工者がおう吐等の症状がありながら、刻み海苔を加工包装したことが判明している。この結果、刻み海苔により4都府県の7施設で2,000名を超える患者の発生が確認されたのである。

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表4 東京都福祉保健局の報道発表

なお、御坊市の事件では、「磯和え」が原因食とされ、和歌山県は、給食調理を行った営業者に対して14日間の営業停止命令を行っている。その後、東京都の調査で刻み海苔が原因であったことが判明した。このため、営業者は営業停止命令の処分取消し訴訟を提訴し、2017年10月に和歌山地裁にて処分取り消しが命じられている。学校給食に限らず、過去一定期間に食中毒事件を発生させた営業者については、給食事業の入札が出来ないことから、和歌山地裁は判決前に異例の処分の効力を止める決定を行って営業者に理解を示している。その後、控訴されたが、2018年1月に和歌山県が処分を取り消し、控訴を取り下げるとともに、営業者が処分は適法で妥当なものと認め、賠償や補償を求めないことで和解が成立している。

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表5 ノロウイルス食中毒の原因と推定された給食メニュー

「東京都福祉保健局の報道発表」を加工して作成

わたしたちが行うべきノロウイルス対策!

刻み海苔の事件は、今まで安全だと考えていた乾燥品である海苔が原因食品であったこと、しかも汚染したノロウイルスが2ケ月以上も感染力を有していたことから、今後のノロウイルスの予防対策を見直す良い機会となった事件である。

食品事業者としては、ノロウイルスの患者や保有者にならないよう日々注意すること、手洗いを励行すること、清潔な作業着を着用すること、そのまま食べる食品類については素手で取り扱わないことなどノロウイルス予防対策を再確認しましょう!