専門家コラム

小暮先生の現場の目

第8回 一向に減らないカンピロバクター食中毒、なぜ?

カンピロバクター食中毒は、細菌性食中毒としては一番発生数が多く、年間約300件、患者数約2,000人程度で推移している。この数値は、全国の保健所からの報告された事例のみであることから、実際には多くの潜在患者がいるものと推計されている。

食中毒発生件数(平成8〜29年)

食中毒発生件数(平成8〜29年)

「食中毒統計」(厚生労働省)を加工して作成

カンピロバクター食中毒発生状況

平成 件数 患者数
20 509 3,071
21 345 2,206
22 361 2,092
23 336 2,341
24 226 1,834
25 227 1,551
26 306 1,893
27 318 2,089
28 339 3,272
29 322 2,446

「食中毒統計」(厚生労働省)を加工して作成

重篤な障害を起こすことがある、ということ

食中毒統計に計上された平成8年以降、死亡事例はないが、罹患後に重篤な神経症状を呈するギラン・バレー症候群を呈することが知られている。平成28年3月に兵庫県で「鶏ササミたたき」を食べた父子が食中毒となり、その後、父親がギラン・バレー症候群となり、四肢の麻痺により後遺障害1級と認定されたため、約1.5億円の損害賠償事例が報告されている。この事件ばかりでなく、高額な損害賠償事件となる事例が複数報告されている。

このように、鶏肉を生食で提供したり、不十分な加熱により提供することは、食中毒だけでなく生涯にわたって重篤な障害を起こす可能性があることを肝に命じておかなければならない。

防止のためには?

カンピロバクター食中毒の防止のためには、養鶏場、食鳥処理場、鶏肉販売店、飲食店(又は家庭)で、それぞれの対策が必要である。

カンピロバクターについては、養鶏場により汚染率が異なることが解っている。しかし、汚染防止対策が確立されていないこと、鶏は感染しても症状を示さないこと、カンピロバクター汚染のない鶏を生産しても経済的メリットがないこと等から、まだまだ対策が不十分である。

現在、国産食鳥肉の95%は全国の約100ケ所の食鳥処理場で処理されている。これらの食鳥処理場では、HACCP制度化にともないHACCPが導入されるため、鶏肉への汚染低減が期待されている。しかし、その前段階として養鶏場での対策が進まなければ、食鳥処理場での二次汚染も防ぎにくいのが現状である。また、小規模認定食鳥処理施設や鶏肉販売店でも施設が小さく、鶏肉と鶏内臓肉が同一のまな板で処理されている状況などから二次汚染は防止できないのが現状である

このような状況から、厚生労働省では鶏肉については加熱調理用であることを明記して販売するよう指導している。しかし、食中毒事件の多くは、加熱調理用の鶏肉を生食用として提供したり、加熱方法が不十分であったことにより発生している。食品安全委員会のリスクプロファイル(2018年5月改訂 p.81)では、生食割合を80%低減させれば70%の事件が減らせると推計している。

飲食店では、加熱調理用の鶏肉を安易に生食用として提供しないこと、十分に加熱調理して提供することが肝要である。

カンピロバクター食中毒の原因食(平成22〜29年)

原因食品 件数 % %
鳥刺し、たたき、ささみ 263 49 83
鶏肉料理 74 14
鶏肉レバー 64 12
焼鳥 39 7
牛レバー、豚レバー 43 8 8
焼肉、バーベキュー 33 6 6
その他 16 3 3
532 100 100

「食中毒統計」(厚生労働省)を加工して作成

鶏肉のドリップ1滴が・・・

カンピロバクター食中毒は、100個程度の小量菌数で感染が成立する。このため、日常料理を行わない学校の調理実習(親子丼とサラダなど)やバーベキュー料理などでの発生も多く報告されている。鶏肉は十分に加熱が必要な食材であること、鶏肉のドリップ(肉汁)1滴がサラダに二次汚染しただけでも感染が成立することから、二次汚染にも注意が必要なことを十分に啓発することが大切である。

鶏肉の取扱いをおろそかにすると、食中毒事件ばかりでなく、重篤な障害を持つ患者発生の加害者ともなることを肝に命じておきたい。