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専門家コラム

小暮先生の現場の目

第12回 次亜塩素酸水による殺菌と電解技術

NITEと次亜塩素酸水

新型コロナウイルス対策のため、アルコールが品薄になるなど消毒薬が不足していることから、「次亜塩素酸水」のニュースを耳にするようになりました。「某自治体が次亜塩素酸水をペットボトルに入れて配布開始!」「某小学校の教室で次亜塩素酸水を噴霧」というようなニュースを聞くたびに、大丈夫かな?と思っていました。

4月の国会答弁でも次亜塩素酸水が話題となり、経産省の要請で(独)製品評価技術基盤機構(NITE)が、代替消毒方法の有効性評価を開始しました。5月には新型コロナウイルスに有効な界面活性剤7種類が公表され、一緒に有効性評価を行った「次亜塩素酸水」については「今回の委員会では判断に至らず、引き続き検証試験を実施する」とされています。

次亜塩素酸関連の薬剤の濃度とpH

前回コラムでは、次亜塩素酸ナトリウムを希釈するとpHが下がり、殺菌力の強い次亜塩素酸(HClO)が発生することを紹介しました。次亜塩素酸の入った溶液の濃度とpHのイメージを示すと図1のようになります。

次亜塩素酸の入った溶液の濃度とpHのイメージ

次亜塩素酸ナトリウムは、塩素系漂白剤(台所用・洗濯用)に配合されている成分で、大体4~6%のものが販売されています。この原液は、漂白や殺菌力がある反面、その濃度が低下しやすい性質を持っているので、製造工場で苛性ソーダを入れて強アルカリ性(pH12程度)に調整して安定性を高めています。この原液を用途別に希釈して使用しますが、10倍に薄めるごとにpHが約1下がりますので、前回お話したように5%の次亜塩素酸ナトリウムを250倍に薄めても、pH8~9程度にしかなりません。このpH領域では、殺菌力の強い次亜塩素酸は少なく、ほとんどが殺菌力の弱い次亜塩素酸イオンとして存在しています。

次亜塩素酸水

これに対して、「次亜塩素酸水」は、pHが酸性領域にあるので、そのほとんどが殺菌力の強い次亜塩素酸として存在していますが、他の次亜塩素酸関連の溶液と比較しても、その塩素濃度が大変薄いことが解ります(図1)。

食品衛生法で食品添加物として指定されている次亜塩素酸水は、生成装置で電気分解したものだけです。食品製造の現場で電気分解をして使用する点で、今までの添加物とは大きく異なります。次亜塩素酸水の分類は表1のとおりです。

表1 次亜塩素酸を含む水溶液の分類

名称 pH 使用濃度
mg/kg(ppm)
主な製造方法 主成分
次亜塩素酸水 強酸性 2.7以下 2060 塩化ナトリウム水溶液を隔膜のある電解槽で電気分解して生成 次亜塩素酸が主成分である
弱酸性 2.7〜5.0 1060
微酸性 5.06.5 1080 塩酸又は塩酸に塩化ナトリウム水溶液を加えて無隔膜で電気分解して生成
電解次亜水 7.5以上 30200 塩化ナトリウム溶液を無隔膜で電気分解 次亜塩素酸を少し含むがほとんどが次亜塩素酸イオン
次亜塩素酸ナトリウム希釈液 7.5以上 1001,000 次亜塩素酸ナトリウム原液を水で希釈

隔膜のある生成装置で生成した強酸性、弱酸性次亜塩素酸水より、隔膜のない生成装置で生成した微酸性次亜塩素酸水の方が、時間当たりでは量が多く生成することができます。

次亜塩素酸水の他に、塩化ナトリウム溶液を無隔膜で電気分解して生成する「電解次亜水」もありますが、pHがアルカリ性で次亜塩素酸イオンがほとんどであるため、次亜塩素酸ナトリウムの希釈水と同等とされています。

次亜塩素酸水は、食品衛生法で食品添加物として指定されており、その定義、有効塩素濃度、pH等が規格基準で規定されています。長期保管すると、この規格基準が担保できませんので、容器包装に詰められた次亜塩素酸水(食品添加物)はほとんど販売されていません。冒頭で、「大丈夫かな?」と思ったのは、この点です。生成装置から生成された次亜塩素酸水は殺菌効果があるはずですが、容器包装に詰められた次亜塩素酸水は、冷暗所に保管しないと失効しやすく、使用量もアルコールのように少量ではあまり効果が期待できません

酸性化次亜水

また、図1にも示していますが、希釈した次亜塩素酸ナトリウム液に希塩酸や炭酸を混ぜてpHを酸性にすることにより、次亜塩素酸が主体の溶液が生成されます。(以下、この溶液を当コラムでは「酸性化次亜水」という。) ただし、素人が次亜塩素酸ナトリウム溶液に酸を混ぜるのは、大変危険です!皆さんもよく目にするように、塩素系漂白剤(次亜塩素酸ナトリウム)には、家庭用品品質表示法で、「まぜるな危険」「塩素系」等の注意表示を義務付けています。過去にトイレ用洗浄剤(塩酸)と混ぜたために塩素ガスによる事故が多発したためです。酸性化次亜水は主成分が次亜塩素酸であることから、次亜塩素酸水の名称で販売されているようです。しかし、食品添加物の次亜塩素酸水とは異なりますので、施設や機械器具類の除菌等には使用できますが、食品には使用できません。また、濃度やpHなどの規格基準も設定されていませんので、使用に当たっては十分注意使用してください。

次亜塩素酸水のメリットとデメリット

次亜塩素酸水は、殺菌力が高く、水道水のように手軽に使用でき、手も荒れにくいため、食品製造現場での導入施設では概ね好評です。しかし、濃度が薄く、有機物や紫外線等で容易に失活するので、使用に当たっては対象物の汚れを除去してから使用することが大切です。過去に、次亜塩素酸水を使用したにも関わらず、溜め水で使用したため、食中毒が発生した事例が報告されています。このため、生成した直後の次亜塩素酸水を水道水のように流水使用(かけ流しやオーバーフロー)するか、保管する場合でも冷暗所のタンクに保管し、出来るだけ早く使用することが必要です。なお、使用に当たっては、規定の濃度となっているか確認してから使用することも大切です。

メリット デメリット
  • 希釈する必要がない
  • 水道水感覚で使用できる
  • 殺菌力が強い
  • 手荒れしにくい
  • 異物混入になりにくい
  • 生成装置に初期投資が必要
  • 生成装置の定期的管理が必要
  • サビが増える場合がある
  • 長期保管しにくい
  • 適切使用しないと効果がない

近年、生成機器の小型化が進んでおり、食品工場だけでなく飲食店等での導入も進んでいます。仕込み場、刺身処理、洗い場に3台の生成機器を導入した都内のある料亭では、導入したことによる安心感の他に、仕込み場の調理人の魚臭さが消えたこと、刺身用まな板の漂白が減ったこと、施設全体の臭いが減少したことなどの変化を実感されて大変満足されています。なお、食器洗浄にも導入を検討しましたが、高価な漆塗りの器の艶がなくなってしまうとのことで、食器洗浄での導入は断念しています。

次亜塩素酸水とHACCP管理

どんなに効果のある添加物も、適切に使用しなければ効果が発揮できません。次亜塩素酸水を適切に使用するためには、業界のガイドラインやマニュアルを遵守して生成装置を適切に管理することが大切です。機器の選定にあたっては、メーカーのデータ等をもとに実際に洗浄・殺菌を行い、目的にあった結果が得られるかどうかを事前に検証しておくことが肝要です。次亜塩素酸水は、生成機器などの初期投資には経費がかかりますが、ランニングコストは廉価となります。定期的に電極交換などのメンテナンスが必要であることから、長期的にメンテナンス可能な業者を選定することも大切です。本年6月からHACCP制度化が施行されましたが、管理方法や使用方法についてマニュアル化して、毎日、使用前に適切な使用濃度となっていることを確認して記録することが求められています。

電解技術の応用

電解生成した次亜塩素酸を使用する技術は、医療分野では手洗消毒や内視鏡消毒用の医療用具として認可されている他、農業分野では、食塩の代わりに塩化カリウムを電気分解した次亜塩素酸水が平成24年に特定農薬(農作物の防除に使用する薬剤や天敵のうち安全性が明らかなもの)として農林水産省の指定を受けています。その他、老人保健施設、保育園、歯科医院や動物病院などにも導入が広がっています。また、環境分野ではビルのタンク水、プール、風呂、カップ式自動販売機などの生活用水の殺菌やトイレの除菌水などにも応用されています。なお、平成29年に次亜塩素酸水生成装置及び次亜塩素酸水についてJIS規格が制定されており、国内外における食品衛生、公衆衛生等の分野での普及拡大が期待されています。

参考文献

  • 「酸性次亜塩素酸水の添加物指定の道のり」アサマパートナーニュースNo.186
  • 「野菜類による腸管出血性大腸菌の食中毒と次亜塩素酸による殺菌」月刊HACCP2018年12月号
  • 「食品現場における次亜塩素酸水の活用と電解技術」月刊HACCP2017年12月号