第15回 衛生管理計画の作成とアレルゲン管理 ~飲食店を例として~
HACCP制度化
令和3年6月からHACCP制度化がスタートしました。今回のHACCP制度化は、一口で言うと食品事業者の皆さんが自主的に衛生管理計画を作成して、安全な食品の提供に努めることです。まずは皆さんにトライしてもらうことを目的としていますので、罰則のない制度化となっています。原則的に、施設設備などのハード面はそのままで、HACCPの考え方を取り入れた衛生管理であるソフト面を科学的に充実させるものです。
HACCP制度化というと、何やら難しそうに考えてしまいますが、皆さんが普段何気なくやっている、「これはちょっと危ないな?!」「こうして保存・調理しよう!」ということを、紙に書きだしてみて、誰にでも解るように「見える化」することです。
「お刺身」は、常温に放置しては傷んでしまいますので、冷蔵庫に保管します。また、ハンバーグは生焼けでは食中毒になってしまいますので、中心部までしっかり加熱して透明の肉汁が出てくるまで加熱する。「そんなことは、言われなくてもやってるよ!」ということを、新人の調理人やアルバイト店員にも容易に解るように、ポスターやマニュアルにしたり点検表を作って確認する習慣を付けていくことです。いきなり完璧なものは出来ませんので、少しづつ皆さんのお店にあったものにしていきましょう!
HACCPに沿った衛生管理
HACCPに沿った衛生管理」については、食品事業者の事業規模に応じて、「HACCPに基づく衛生管理」と「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」に大別されています。飲食店営業の皆さんであれば、HACCPの手順を簡略化した「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」の対象となります。
「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」については、各食品事業者団体が厚生労働省の技術検討会の確認を受けた手引書等を参考にして衛生管理計画を作成することが求められています。
皆さんは、厚生労働大臣が定めた基準に則り、まずは①衛生管理計画や手順書の作成、②従業員に周知徹底して実施し、③記録を保存することが求められています。ある程度、記録が溜まったら計画や手順書を定期的に④検証して見直していきます。この考え方は、課題解決ためのPDCAサイクルと同じですね!
衛生管理計画作成のための手引書
令和3年6月時点で、約100種類の手引書が厚生労働省HPに掲載されています。この中で調理業に着目すると、11の手引書が掲載されていますが、通常のレストラン等であれば下記の5つの手引書が参考になると思います。これらの手引書を参考にして衛生管理計画書を作成します。手引書には、手順書(マニュアル)や記録のための帳票例も掲示されています。すでに、皆さんが使用されている手順書や記録表があれば、そのまま使用しても一向に差し支えありません。また、東京都や大阪府では、小規模な一般飲食店におけるHACCPの取組を支援するため、「食品衛生管理ファイル」を公開しています。また、不明の点は保健所が指導や助言を行っています。
業種業態 | 手引書タイトル | 作成団体 | |
---|---|---|---|
1 | 飲食店営業 | HACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引書(小規模な一般飲食事業者向け) | 日本食品衛生協会 |
2 | 飲食店営業 (焼肉店) |
焼肉店向けHACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引き書2021年 | 全国焼肉協会 |
3 | 多店舗展開 外食業 |
多店舗展開する外食事業者のための衛生管理計画作成の手引き ~HACCPの考え方を取り入れて~ | 日本フードサービス協会 |
4 | 旅館業 | 旅館・ホテルにおけるHACCPの考え方を取り入れた衛生管理手引書 ~宿泊者に提供する夕食・朝食を対象に~ | 全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会 |
5 | ホテル業 | ホテル事業者が実施するHACCPの考え方を取り入れた食品衛生管理の手引書 〜ホテルでの着席・ビュッフェを中心としたスタイルによる食事提供において〜 | 日本ホテル協会 |
提供食品の危害要因分析
HACCPのHAはHazard Analysis危害要因分析、CCPはCritical Control Point重要管理点の略です。まずは、皆さんのメニューを書き出して、原材料や調理工程にどのような危害要因があるかを考えます。次に、この危害要因を取り除くために必要な重要管理点を定めて実行するのが、HACCPの考え方です。
上記の手引書では、細菌性食中毒防止を念頭に、提供する食品を、①加熱しないで提供する食品、②加熱してすぐ提供する食品、③加熱と冷却を繰り返す食品などにグループ分けして管理方法を定めています。
しかし、食品の危害要因は、食中毒細菌だけではありません。危害要因については、生物的、化学的、物理的な要因を考慮して、その発生頻度と健康被害の重篤性を危害度マトリックスで評価して重要管理点を決めていきます。評価は、個人個人で多少異なりますが、想定される危害要因ごとに、危害度を評価すると下表のようになります。評価値が小さいほど、その危害度が高いことが解ります。この表では、事件数の多いノロウイルスに次いで、アレルゲン管理のリスクが高いことが解ります。
発生頻度 | 発生時の重篤性 |
---|---|
1 高い(よく起こる) 2 やや高い(事例あり) 3 低い(他社事例あり) 4 非常に低い 5 ほとんど発生しない |
A 高い(致死性) B やや高い(重症) C 低い(一過性) D 非常に低い E 健康障害はない |
危害評価のマトリクス
発生頻度 | 重篤性 | ||||
---|---|---|---|---|---|
A | B | C | D | E | |
1 | 1 | 2 | 4 | 9 | 11 |
2 | 3 | 5 | 7 | 12 | 16 |
3 | 6 | 8 | 13 | 17 | 20 |
4 | 10 | 14 | 18 | 21 | 23 |
5 | 15 | 19 | 22 | 24 | 25 |
※下の表は左右にスライドできます。
想定される危害要因 | 頻度 | 重篤 | 評価 | 主な管理方法 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
生物的 | 刺身類 | 腸炎ビブリオ | 3 | B | 8 | 魚介類の洗浄と冷蔵管理 | ||
アニサキス・クドア | 2 | C | 7 | 冷凍食材の使用・目視徹底 | ||||
焼き鳥 ハンバーグ |
サルモネラ・カンピロバクター・腸管出血性大腸菌 | 3 | A | 6 | 食肉中心部の加熱温度の確認(75℃1分間の確認) | |||
カレー スープ類 |
ウエルシュ菌 | 2 | D | 12 | 加熱後は65℃以上で保温 冷蔵する場合は早く冷まして冷蔵 |
|||
野菜サラダ類 | 病原性大腸菌 | 3 | A | 6 | 塩素剤による殺菌・冷蔵管理 | |||
玉子焼き おにぎり |
黄色ぶどう球菌 | 3 | C | 13 | 従事者の手指の衛生管理 | |||
すべての食品 | ノロウイルス | 1 | C | 4 | 従事者の健康管理の徹底 | |||
化学的 | 洗剤・殺菌剤 | 食品への混入 | 3 | C | 13 | 使用マニュアルの厳守 | ||
アレルゲン | 表示確認ミス | 2 | B | 5 | アレルゲンリストの作成と保管 | |||
ホールスタッフへの従業員教育の徹底 | ||||||||
物理的 | 原材料 | 石・虫・合成樹脂 | 4 | C | 18 | 目視確認の徹底 | ||
機械器具 | 包丁の刃・機械のネジ | 4 | C | 18 | 始業時・終業時の点検・定位置管理 | |||
従事者 | 毛髪・絆創膏 | 4 | E | 23 | 毛髪ローラー・手指の衛生管理 | |||
その他 | 輪ゴム・ホチキス | 3 | E | 20 | 持ち込み禁止品の徹底 |
※表は左右にスライドできます。
アレルゲン管理の重要性
食物アレルギーの症状は下表のとおり多彩で、数分で発症するなど進行が速いので迅速な対応が必要です。症状がいくつか同時に現れることをアナフィラキシーと呼び、全身状態が急速に悪くなりアナフィラキシーショックで死亡することもあります。つまり、アレルゲン管理の不備は、死亡事故に直結する可能性があります。
近年は、食物アレルギーの方々も増えており、レストランで「私は○○アレルギーなので○○は食べられません!」ときちんと申告されるお客さまもいらっしゃいます。こうした、お客様に的確にアレルゲンのない食品を提供することが求められています。食品表示法では、7品目については表示を義務づけており、21品目については表示を推奨しています。
表示 | アレルギー物質 | |||
---|---|---|---|---|
魚介類 | 動物性 | 野菜・穀類 | 果実 | |
義務7品目 | えび | 卵 | そば | 落花生(ピーナッツ) |
かに | 乳 | 小麦 | ||
推奨21品目 | あわび | 牛肉 | 大豆 | アーモンド |
いか | 豚肉 | 松茸 | キウイフルーツ | |
いくら | 鶏肉 | 山芋 | 桃 | |
さけ | ゼラチン | ごま | りんご | |
さば | くるみ | |||
オレンジ | ||||
バナナ | ||||
カシューナッツ |
事故を防ぐためには、メニューごとのアレルゲンリストを作成して、いつでもお客様に説明できるよう常備するとともに、お客様に対応するホールスタッフさんへの従業員教育がとても大切です。
東京都の「食品衛生の窓」HPでは、「食物アレルギー事故防止の3か条」を提示して注意喚起しています。
- 使用食材について最新で正確な情報を提供する
- お客様の質問に対してあいまいな回答をしない
- アレルゲンの混入に注意し、混入の可能性について必ずお客様に伝える
アレルゲン管理の重要性を再認識して、従業員教育を忘れずに実施しましょう!