専門家コラム

小林先生の情報館

第1回:食中毒のはなし

食中毒?感染症?

ヒトは、しばしばお腹をこわして下痢をしたり、熱をだしたりしますがそれらは気温の低い冬期や暑い夏期に多くみられます。またその原因には寝冷えや神経性のものから、風邪ひきや食あたりなど、さまざまなものが考えられます。そのようなときには家でじっとしているか、医療機関に行って診察を受け、薬を飲むなどの処置をします。

また下痢がひどいときなどは水分補給に気をつけ、高熱時には解熱剤を飲むことや頭を冷やすなどを行います。この食あたりが'食中毒'で、多くは微生物(病原体)によって起こっています。'食中毒'とは食品と関係して発生するので「飲食物によって起こる健康傷害」と一般的に定義しますが、食品に関係せずとも同じような症状を現すことがありますが、そのような病気を'感染症'といいます。

厳密にみると両者を区別できるものもあれば出来ないこともありますが、患者の発生からみると、'食中毒'は同じものを食べて起こるので1~2日の間に集中しています。これに対して'感染症'はヒトからヒトへの二次感染を繰り返して患者数が増えますので、対策を講じるまで何日にも渡り患者発生が続きます。

もちろん疫学調査といって、患者から何時、何を、どれだけ食べたか、どこに行ったか、などを聞き、患者間で共通する飲食物や行動を探り判断します。また両方の原因が合わさって患者が多数でる場合もみられます。

最初は'食中毒'であったものが施設内や家庭で二次感染をして拡大した「腸管出血性大腸菌O157」事件の場合は、同じ食品を食べていないけれども、同じO157によって病気になっていることの証明を行うことによって、同一食中毒の患者と判断することが行われます。O157もヒトで各人の遺伝子が違うように進化していく過程で遺伝子が異なる多くの種類があります。ところが同じ食品が原因となった場合やある患者から二次感染した場合などは、もと居たO157が二分裂で増えて起こるので同じ遺伝子を保有しています。

ではどういう風にして証明するのでしょうか

原因の特定

原因となった食品(これを一般には推定原因食といいます)から食中毒病原体が検出された場合には、比較的容易に判断できます。

食品からの病原体と患者から検出された病原体が同じ種類であり、且つその遺伝子を構成している塩基の並び(塩基配列)が同じであるということを遺伝学的方法;パルスフィールドゲル電気泳動法(PFGE)というもので確認します。

これは遺伝子に決まった塩基配列があればそこで切断する制限酵素(酵素によって切れる特定の配列が決まっている)というもので病原体を処理したのちに、ゲルを支持体としてその中を電気的に移動させるものです。切断された遺伝子断片の大きさの違いによって移動距離が異なり、色々な位置に移動した遺伝子を染色するとバーコードのような模様が出来ます。このパターンが同じであれば同じ遺伝子を保有していることになり、同一病原体ということが出来ます。

近年、多くの病原体や事件例で応用され、その有用性が確認されています。 一方、病原体が検出できなかった場合は、先に述べました疫学調査から時間的にみてそれが同じ食品を食べて起こったかどうかを判断することになります。

食中毒のいろいろな原因物質

細菌以外の微生物性よる食中毒は、塩素殺菌が困難で原水が汚染していれば危険なクリプトスポリジウムという原虫性、サバなどの生食で起こるアニサキス症などの寄生虫によるものがあります。

食中毒には他にも多くの原因があります。フグ毒、毒貝や毒キノコ、毒草などの'自然毒'では、毎年数名の死者が出るフグによる中毒は有名ですが、秋には毒キノコによるものが起こります。またサバやカジキマグロなど背の青いといわれる魚類の照焼やフライでしばしば起こるヒスタミンなどは化学性食中毒です。これら二つによるものは食べた後30分から数時間の間に顔面紅潮やしびれなどの症状が下痢や嘔吐に先立って現れます。

また金属片や石、プラスチック片などの'異物'による健康傷害も食中毒に入ります。これらは多人数が一度に発生することは余りありませんが、包装材や調理時の器具、機材からの混入が主なもので、念入りにチェックする必要があります。

食中毒発生時の影響

食品危害は製造物責任法(PL法)で損害賠償による補償や製品の回収、廃棄など経済的に大きな負担となりますが、それよりも食品製造企業としての信用失墜による影響が大きく会社の存亡に関わってきますので最大限の注意が必要です。

以上大まかに食中毒について書きましたが、次回からはそれぞれの中毒についてみていきます。

獣医師、医学博士 小林 一寛