手洗いの科学
プロフェッショナルな手洗いを支える
科学的データ知ってる?
データ1
衛生的手洗い「洗って・ふいて・消毒」の効果
対象菌として大腸菌を手指に塗布し、洗って・ふいて・消毒の各工程で菌の減り具合を調べる実験を行い、回収された菌数をグラフに示しました。縦軸を対数の値で示しています。石けんで洗うだけで菌数が2ケタ程度減少し、ペーパータオルで水分および汚れをふき取るようにすると、さらに1ケタ減少します。(1ケタ減少するということは菌数が1/10程度になったことを示し、2ケタ減少するということは、菌数が1/100程度になったことを示します。)アルコールを噴霧して手指消毒を行うとさらに1ケタ以上減少しほぼ検出限界以下となり、この連続した「洗って・ふいて・消毒」のプロセスが有効であることが確認できます。
※グローブジュース法:手に滅菌手袋を着用し、その中に回収液を入れて菌を揉み出し、回収した液を培養し、細菌数を測定する方法
大腸菌で汚染させた手指に対する除菌効果
(グローブジュース法※)
サラヤ㈱ バイオケミカル研究所調べ
データ2
衛生的手洗いの効果を手型スタンプ法で見てみると??
データ①と同様に、大腸菌を手指に塗布し、手洗いの各工程で菌の減り具合を手型スタンプ(スタンプ用デソキシコレート寒天培地)で測定しました。
未処理の状態から比べ、石けん液で手を洗うとかなり菌数が減少しています。さらにペーパータオルでふくと、ほぼ除去できたように見えますが、指先や手の平部分にコロニーが確認でき、まだ除去しきれていないことがわかります。
最終的にアルコール消毒まで実施すると、コロニーは確認されず、塗布した大腸菌がすべて除去できたことがわかります。
大腸菌で汚染させた手指に対する除菌効果
(スタンプ用培地上のコロニー形成状況)
サラヤ㈱ バイオケミカル研究所調べ
データ3
消毒液の受け方・すり込み方によって消毒の出来栄えに差が!?
A・B・Cの方法でアルコール消毒液による手指消毒を実施し、親指の3ケ所(爪の先端・指腹部・爪の根元)を検査してコロニーの検出があった場合を陽性とし、それぞれの陽性率を表に示しました。
- A:指先を伸ばした状態で消毒液を受け、手指にすり込む方法は指示なく自由にすり込む
- B:指先を曲げて爪に消毒液がかかるように受け、手指にすり込む方法は指示なく自由にすり込む
- C:指先を曲げて爪に消毒液がかかるように受け、手指へのすり込みは指示に沿って行う
爪に消毒液がかかるように受け、指示に沿って(全体に消毒液が行きわたるように)すり込みを行うと消毒の効果が高まるということがわかります。
手指消毒方法による消毒の出来栄えの違い
サラヤ㈱ バイオケミカル研究所調べ
データ4
手洗いマニュアルはなぜ必要?
任意の方法で手を洗ったときと、規定の方法(手洗いマニュアル)で手を洗ったときとの洗浄効果について調査したところ、規定された方法のほうが洗浄率が高いことが確認されました。また、洗浄率の値だけでなく、棒グラフの標準偏差(ばらつき)を示すバーに着目してみてください。任意の方法では、洗浄率に大きなばらつきが見られたのに対し、規定された方法で洗うと、ほとんどの人が99%以上の洗浄率を示しました。
効果的に手を洗うためには、手洗いマニュアルで洗い残しのない方法を規定することが望まれます。
任意/規定の方法による手洗い洗浄率の違い
サラヤ㈱ バイオケミカル研究所調べ
データ5
爪が長いと指先には菌がたくさん!
手指のなかでも、特に指先に潜む汚れ・菌が多いことが知られており、食品衛生においては「爪は常に短く切りそろえること」が常識化しています。これを検証するために実験を行いました。
常に爪を短く切って整えている場合と、爪を切らずに伸ばしている場合との指先に潜む菌数の違いを比較しました。結果のグラフから、爪を伸ばしている期間が長いほど指先からの回収菌数が膨大することがわかります。
爪は常に短く切り、手洗い時には指先の汚れをかき出すように手洗いを行うことが望まれます。
(爪先にある白い部分を全て切り除くということではなく、伸ばしすぎないように整えましょう。)
※フィンガーティップ法:指先を液体培地の入ったペトリディッシュの底に1分間こすりつけ、指先の菌を採取し、回収液から細菌培養して菌数を測定する方法。
データ6
爪部分にはこんなにも菌数が!
爪の下に多数の菌が存在することを明らかにしたデータです。爪の下をマニキュアで覆った場合と覆わなかった場合とで、それぞれに殺菌剤未配合の普通石けんで手洗いを複数回行い、手指から回収される菌数の変化を調べました。
爪先を覆った場合は菌数は減少していきますが、爪先を覆わなかった場合は、手洗いを複数回行っても多数の菌が回収されています。つまり、爪下の隙間部分に菌が多数存在していることがわかります。
このことから、手洗いを行う際には、ブラシを用いるなどして爪下の隙間部分の汚れを丁寧にかき出すことが望まれます。
爪下部分のシール(覆い)有無での菌数の違い
J.J.Leyden,K.J.McGinley,S.G.Kates,K.B.Myung,Hosp.Epidemiol.,10(10),451(1989)
データ7
手荒れをしていると黄色ブドウ球菌(食中毒原因菌)検出率が高いという事実
食品工場従事者と外食産業従業員の手指の状態(手荒れをしているか、していないか)別で、黄色ブドウ球菌の検出率を調べたデータです。このデータから、手荒れをしていると、手指の通過菌の代表である黄色ブドウ球菌が手指上に高率で存在することがわかります。
黄色ブドウ球菌は、食中毒の原因菌であり、食品を取り扱う現場では注意しなければならない菌です。できるだけ手荒れを起こさないような手指ケア(保湿ローション等でのスキンケアや、手荒れ対策に配慮した手洗い剤の選択など)が必要であるとともに、手荒れがある場合の手袋着用や従事する業務内容のルール化などが望まれます。
食品企業従事者の手指の状態による
黄色ブドウ球菌検出率
西田博:J.Antibact.Antifung.Agents,(1984)12,2,79
データ8
手洗い場の蛇口カランや石けん液ポンプ部はキレイ?汚れている?
このデータは食品取扱現場ではなく、医療現場のものですが、手洗いの過程で触れる蛇口の取っ手(カラン)や石けんディスペンサー(ポンプ部)は汚染されている可能性が高いということがわかります。このことから、手洗い時の交差汚染を防ぐためには、ノータッチで使用できる自動水栓やディスペンサーの使用が望まれます。
ATP、一般生菌およびブドウ球菌数の検出結果(上段:基準値以上のサンプル数/全サンプル数、下段:割合(%))
※表は左右にスクロールできます。
蛇口の取っ手 | 石けんディスペンサー | |||
---|---|---|---|---|
小児科病棟 | 外科病棟 | 小児科病棟 | 外科病棟 | |
ATP値 | 112/120 93% |
113/120 84% |
90/96 94% |
79/84 94% |
一般生菌数 | 48/120 40% |
51/120 43% |
21/98 21% |
19/84 23% |
ブドウ球菌数 | 39/120 33% |
38/120 32% |
16/96 17% |
13/84 15% |
Griffith C. J. et al., (2003). Am. J. Infect. Control, 31, 93-96.