熱中症コラム

労働環境における

職場での熱中症対策

 日本気象協会のデータによると、2024年(今年)の7~8月は全国的に、平年より高い気温の日が5割、平年並みが3~4割にもなると予想されています。よって、ほとんどの日に「厳重警戒」の注意喚起が発出されることになります。一度熱中症にかかると、長期間にわたって体調不良や認知機能の低下が続くこともあります。屋内労働だからと安易に判断していると、後悔することになりかねません。屋外で労働やスポーツに従事する人はもちろん、屋内にいても身の安全のために熱中症の対策を講じることが必要です。今回は、労働者でも成人と高齢者に分けて、また屋内と屋外に分けて熱中症の対策や注意点を解説します。


熱中症の怖さ

 熱中症にかかると、重篤な場合、脳など中枢神経系の障害が起きやすくなります。具体的には、脳浮腫、致死性の不整脈、意識喪失、昏睡を経て死に至ることもあります。軽症の熱中症であっても、倦怠感、めまい、頭痛、認知機能への影響などが及び、数週間から数ヵ月ほど体調不良になることもあります。



気象庁:向こう3ヶ月の天候の見通し 全国(7〜9月)


労働者における熱中症対策


一般的な労働者

 夏バテや疲労、体調不良、特に前日から当日にかけての下痢や睡眠不足がある場合、若者であっても高リスク者ととらえて、就労時間を半分程度に抑えるなど、慎重に防止策を講じましょう。


高齢者


健康的な成人に比べると、病気持ちや有所見の人、高齢の労働者であること自体が高い熱中症リスクになるため、注意が必要です。さらに食欲不振の人、降圧薬や血糖降下薬を服用中の人、前立腺肥大や過活動膀胱炎で水分を少なめに摂っている人などは、特に高リスク者となります。その上、夏バテや疲労、体調不良を覚え、前日から当日にかけての下痢や睡眠不足がある場合、最も危険な状態ととらえ、就労から外れるなど、万全の防止策を講じましょう。



成人・高齢者共通の対策


作業(就労)中に大量の発汗とともに頭痛、吐き気、めまい、筋肉の違和感(こむら返りなど)を覚える人が出た場合、速やかに空調設備と冷却グッズの整った休憩室へ移動させ、塩分を含む熱中症対策ドリンクまたは水かお茶+塩飴か塩タブレットを補給しましょう。低血糖症状が疑われる場合、糖質を加えたり、嗜好に応じてクエン酸(レモン、オレンジなど)を付加することも良いでしょう。
なお、低ナトリウム血症(=大量の飲水と大量の発汗による塩分の過剰排泄)は上記の『熱中症の怖さ』に最もつながりやすいことに留意しましょう。


低ナトリウム血症の発症に関与する要素


職場環境における熱中症対策や注意点


室内において

 工場などの製造業に従事する人、清掃業に従事する人、室温や湿度の高い厨房で働く人、空調環境が備わっている倉庫内で働く人など、労働者の置かれている環境はさまざまです。職種や空調設備の有無、外気の温度や湿度によって熱中症のリスクは異なってくるため、劣悪な環境下で働く方はもちろん室内での労働下でも堅実な対策を徹底的に講じることが必要です。特に空調設備の無い密閉された倉庫内などの作業、荷物の積み下ろし作業などは、リスクが非常に高くなるため、涼しい環境下で休憩できる時間の確保、水分補給の徹底、定期的な体調チェックが必須といえます。


注意点

  1. 太陽熱がこもりやすい室内はスポットクーラーなどの空調設備を導入する。業種によっては、遮熱カーテン、断熱材、扇風機、冷蔵庫などを設置し、通気性や吸湿性に優れた作業着を着用する。
  2. 個人用の水筒またはドリンクの携帯を欠かさず、汗で失った塩分補給のために、塩飴や塩タブレットを摂取する。水分のみの補給を繰り返していると、低ナトリウム血症に陥るリスクが高まるため注意する。
  3. 警戒レベルが発出される日には、作業時間の短縮や、作業時間帯の変更、休憩時間を増やすなどの対策をする。
  4. 現場責任者は従業員の体調を注意深くチェックする。


屋外に置いて


 屋外は屋内に比べて、気温が高く、湿度も高いことが多いため、身体からの熱放散が妨げられ(特に無風状態の時)、体温は上昇します。屋外の労働者は建設業に従事する人、運送業に従事する人、警備員や道路交通整理を担う人、そしてレジャー施設や観光施設で入場券を受け取る人などに大別できます。長時間のトラック運転手やタクシー運転手はクーラーのかかった車内にいることが多いため、熱中症のリスクは相対的にやや低いと言えますが、その他の労働者は非常に高いリスクに直面しています。特に重機を使う作業、資材の運搬作業、離れた場所にある倉庫への荷物の運搬作業、荷物の積み下ろし作業などは、リスクが非常に高くなるため、涼しい環境下で休憩できる時間の確保、水分補給の徹底、定期的な体調チェックが必須といえます。


注意点

  1. 太陽熱を直接的に浴びないように、業種に応じて日よけ帽、サングラス、サンバイザー、日よけ、冷風扇、スポットクーラーなどを活用する。
  2. 個人用の水筒またはドリンクの携行を欠かさず、汗で失った塩分補給のために、塩飴や塩タブレットを摂取する。水分のみの補給を繰り返していると、低ナトリウム血症に陥るリスクが高まるためである。
  3. 警戒レベルが発出される日には、作業時間を短縮し、作業時間帯を早め、かつ休憩時間を増やす。
  4. 現場責任者は従業員の体調の変化に細心の注意を向ける。

屋外作業での熱中症発症時における湿度(Y)と気温(X)


vol.2 職場での熱中症対策

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PROFILE

田中 喜代次 先生

筑波大学名誉教授/教育学博士(スポーツ医学・健康増進学)
筑波大学大学院体育科学研究科修了
大阪市立大学保健体育科講師、筑波大学体育科学系助教授、筑波大学大学院人間総合科学研究科スポーツ医学教授を経て 現在に至る。

アメリカスポーツ医学会フェロー(FACSM)
日本介護予防・健康づくり学会会長、日本健康支援学会元理事長、日本メディカルフィットネス研究会元会長、健康支援事業のコンサルティングサービスを専門的に提供する株式会社THFの代表も務める。

アメリカスポーツ医学会優秀賞
日本体力医学会優秀賞
秩父宮記念スポーツ医学・科学賞奨励賞