熱中症にかからないための体づくり
従業員の健康意識を高めるためには、概論的な指導の繰り返しでは不十分であり、性・年齢・体質・性格・職種・家庭環境など、個々の特性に応じたオーダーメイドの支援が重要です。たとえば中等度以上の肥満者には、運動よりも食事療法の意義を十分に理解してもらう必要があります。一方、痩せ型の高血圧者や高血糖者には同じ食事療法が通用せず、個別の対応が求められます。真に効果的な健康づくりとは、本人の生活の中に変化の契機となる「エポック」を生み出すことです。継続的な運動習慣や専門家による個別指導の機会を通じて、そのような変化『エポックメイキング』が望まれます。熱中症対策においても、暑熱順化・冷却・水分補給・塩分補給といった個々に適した方法を提示する視点が必要です。
熱中症の対策時期について
昨今、地球全体の平均気温が上昇し、熱中症で急死する人は後を絶たない状況です。熱中症の罹患率・死亡率は、ともに年々増加傾向にあり、ヒートアイランド現象への警告が国や都道府県から発出されています。昨年は4月中旬に30℃を超える地域が出ており、10月中旬までの6ヵ月間にわたり、熱中症にかかった人(約10万人)が救急搬送されました。
熱中症の対策時期は昔の7月と8月のみではなく、4月中旬から10月中旬にかけての6ヵ月と言えます。

屋内環境での熱中症対策
屋内での対策として重要なことは、①エアコン、扇風機、冷風・冷却グッズなどの利用、②こまめな水分補給(水、麦茶、スポーツドリンク、経口補水液、個に合った自家製ドリンクなど)です。但し、鉄工場での肉体労働、建設作業、左官作業、農作業などでは危険性が著しく高まるため、適度な水分と塩分補給+休憩を取る必要があります。認知機能が低下している場合には、熱中症の危険性がさらに高まるため、冷却や水分補給など周囲の見守りが行き届く環境を整えねばなりません。また、基礎疾患を有していて、降圧利尿薬、β遮断薬、糖尿病薬、精神薬、抗コリン作用薬などを服薬中の場合にも特に注意が必要です。

エアコン使用における体力変化
夏場に自宅内や職場内に長くいる人の多くは、運動不足で体力が低下していきます。東京23区では昨年の7月だけで熱中症死者123人中、121人が屋内で死亡しました。そのうち、79人はエアコンを不使用、28人はエアコンを非設置だったと報告されています。また、運動不足は睡眠の質の低下、水分摂取不足につながり、人によっては脱水症が進行して、危険な状態を招きます。エアコン環境下で生活・仕事することが重要ですが、加えて定期的にストレッチ、体操、足踏み、筋トレ、階段利用、短時間(5~15分程度)の屋外ウォーキング、そして入浴中のストレッチや入浴による発汗などで体力づくり(暑熱順化)を図ることが重要です。暑熱順化とは、体が暑さに慣れていく生理的な適応過程のことを指し、①発汗量が増える(体温が効率的に下がる)②汗の塩分濃度が下がる(ナトリウムの喪失を抑える)③皮膚血流が増える(熱を外に逃がしやすくなる)効果が生まれます。
職場での熱中症対策としての体力づくり
トイレ利用時に手洗い台や壁などを使ってストレッチ
- 手洗い台や壁などに手を乗せ、肩・背中が手の位置まで下がるようにする
- 柔らかい人は、肩・背中が手の位置より下にくるように頭を下げる
自動販売機の前で自販機や壁などを支えに筋トレ
- 両足の幅を少し広げ、かかとをできるだけ素早く、高く上げる
- その姿勢で2~3秒数えたら、かかとをゆっくり下ろす
- 5回繰り返す
自宅での熱中症対策としての体力づくり

近所への外出時の運動通勤や買い物などでサイクリング
20~30分程度で移動できる距離なら、自転車を活用する
※交通事故に留意ください

入浴中のストレッチ
シャワーのみで済ませず、湯船にお湯をはって入浴し、適度に汗をかくと良い。
両ひざを立てた状態で、上半身を左右にゆっくりひねる