熱中症コラム

オーダーメイド(個別)対策の重要性

熱中症に備えよう

熱中症で急死する人は後を絶たず、幼児から高齢者までと幅広いです。熱中症の罹患率・死亡率は年々増加傾向にあり、ヒートアイランド現象と言われる昨今、特に熱中症対策の重要性が叫ばれています。夏場の一時期に限定的であった熱中症ですが、今年は4月中旬に30℃を超える地域が出ており、10月中旬までの6ヵ月間にわたり、対策の徹底が望まれます。今号は、熱中症の怖さとともに、その防止策について解説します。

熱中症の危険性

 熱中症にかかると、重症の場合には、中枢神経障害で脳に後遺症が残ることがあります。例えば、姿勢が不安定になり、手足の協調運動が困難になる(易転倒性:転倒しやすい)などの小脳失調をはじめ、失語などの認知症に発展します。軽症の場合でも、倦怠感、めまい、頭痛などが長期にわたって続くこともあります。空調設備の不良な環境下での長時間労働時、炎天下でのスポーツや学校体育には最高レベルの注意が必要です。アスファルトやゴルフ場の芝の照り返しで、身長の低い(円背の)高齢者や小児、ペット(犬や猫)では危険性が高まります。

熱中症の症状

 めまい、立ちくらみ、顔のほてり、筋肉の痙攣、こむら返り、あくび、倦怠感、脱力感、口渇感、頭痛などの諸症状は、熱中症の典型的なサインです。少しでも異変を感じたら、可及的速やかな対策を講じましょう。症状が重い場合、救急車を呼ぶ、医療機関へ搬送することとし、同時に身体の冷却、涼しい環境への移動、水分補給に努めましょう。なお、嘔吐など中等症・重症だと、水分を摂取できないことがあります。



大切なのはオーダーメイド(個別)対応


 暑熱環境下では誰でも熱中症にかかる可能性があるので、予め対策をしっかり立てることが重要です。特に、オーダーメイド(個別)対策が必要となります。高齢者は暑さを感じにくく、汗をかきにくく、熱中症の自覚症状が出にくく、本人も周囲も気づきに遅れるため、熱中症死亡の8割を高齢者が占めています。また、①健常者でも体調不良時には熱中症にかかりやすい、②野球やサッカーやバレーボールなどのスポーツ選手よりも観客席で熱中症にかかる例が多い、③服薬が脱水症を引き起こしやすい、④死亡例が少ない子どもでも熱中症にはかかりやすい、などを認識する必要があります。
 慢性心臓病、肝臓病、腎臓病、慢性呼吸器疾患、免疫系疾患、神経系疾患などの基礎疾患を有する人には、いろいろな種類の薬が処方されています。特に高血圧症に処方される降圧利尿薬、糖尿病に処方される血糖降下薬などは体水分を排出する作用を有しているため、高温多湿時には脱水症状に陥りやすいことへの注意が必要です。



個に合った電解質補給で低ナトリウム血症を防ぐ!


 熱中症対策として水分補給が指示されますが、水やお茶だけでは不十分となる場合があります。東京マラソン(札幌、2021)でエントリした一流の男子ランナー106名の中の30名が途中でリタイアしました。その主な原因は、大量の発汗と大量の飲水による低ナトリウム血症です。低ナトリウム血症とは、体液の塩分(ナトリウム)濃度が通常より低下した状態で、多量の汗で水と塩分が失われた際に、水あるいは汗よりも塩分濃度の低い飲料を多量に飲むことで起こる怖い症状です但し、汗の塩分濃度には大きな個人差があるため、水だけで十分な人、水+塩分の必要な人、水+糖分を推奨される人のほか、アスリートのように水+塩分+糖分を補給する例、これら3つ+クエン酸の補給を好む例など、さまざまです。年齢、体質、運動や労働の厳しさ、服薬の種類(降圧利尿薬)などによって個に合った適切な水分補給が望まれます。低ナトリウム血症に陥ると、こむら返りや筋肉の痙攣を起こし、歩行中の転倒・骨折、自転車運転中の事故、農機の誤操作などによる事故、自動車運転事故、最悪の場合には中枢神経の異常などにつながりかねません。



熱中症の症状が出た際の具体的な対応


●湿度と気温や熱中症指数のチェック

屋内でも日差しの遮断、日よけシート、風通しで環境を良くする。
日傘を使用し、帽子を着用する。

●水分補給 原則、水分補給または医療機関での点滴が不可欠

飲み物を持ち歩く。
但し、かかりつけ医から制限の指示が出ていれば、それに従う。


●塩分や糖分の補給

スイカに塩をかける、鉄工場の労働者は岩塩や梅干しを持参する、庭の剪定職はクーラーボックスに梅干しや砂糖入りの麦茶を入れて持ち歩く、メキシコやフロリダでは塩をかけてビールを飲む・・・これらは先人たちによって自然と培われた生活の知恵。水1Lに糖分(30-40 g)+塩分(2-3 g)を加えた補水液(レモンやグレープフルーツの果汁を好みにより適量含めても良い)、スポーツドリンク、各種栄養素を含むゼリー飲料のほか、糖分補給を必要としない場合には塩飴、塩タブレットなどがおすすめ。


●冷却グッズの活用

冷却シート、アイスパック、製氷機など。

●快適な睡眠環境

エアコンの活用、通気性や吸水性の良い寝具の使用、寝室の照明管理。


●熱中症にかからない体力づくり

朝夕の散歩、ウォーキング、ジョギング、ダンス、水泳など。

●熱中症対策に向かない飲み物

コーヒー、紅茶、緑茶、コーラ飲料、栄養ドリンク(以上、カフェインが多い)、アルコール、(糖尿病なら)清涼飲料水、ジュースも不可。



vol.1 熱中症に備えよう

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PROFILE

田中 喜代次 先生

筑波大学名誉教授/教育学博士(スポーツ医学・健康増進学)
筑波大学大学院体育科学研究科修了
大阪市立大学保健体育科講師、筑波大学体育科学系助教授、筑波大学大学院人間総合科学研究科スポーツ医学教授を経て 現在に至る。

アメリカスポーツ医学会フェロー(FACSM)
日本介護予防・健康づくり学会会長、日本健康支援学会元理事長、日本メディカルフィットネス研究会元会長、健康支援事業のコンサルティングサービスを専門的に提供する株式会社THFの代表も務める。

アメリカスポーツ医学会優秀賞
日本体力医学会優秀賞
秩父宮記念スポーツ医学・科学賞奨励賞