熱中症コラム

効果的な電解質・水分補給とタイミング

 熱中症対策の義務化は、国の重要な健康増進施策の一つとして、高く評価されるべきことだと思います。地球温暖化の加速、新型コロナウイルス感染症やインフルエンザの流行、労働環境の厳しさに加え、睡眠不足の人や慢性疾患予備軍の増加などを考えると、熱中症対策とともに、その主な前兆で強力な起因となる脱水症対策も老若男女すべての国民に重要です。こうした背景を踏まえ、暑熱環境下で起こりやすい体調変化や、作業中に注意すべきポイント、そして無理なく実践できる水分補給・管理の工夫について解説します。


水分・電解質補給の重要性

熱中症・脱水症対策には、言うまでもなく、水分補給と塩分などの電解質(ミネラル)補給を欠かすことができません。ミネラルと言えば、カルシウム、鉄、亜鉛などを含む無機栄養素の総称であり、必ずしも体液調節に直接関与するものだけを指すわけではありません。一方、電解質とは、水に溶けて電気的性質を持ち、体内の水分バランスや筋収縮、神経伝達、体温調節に直接関与する物質を指します。つまり、熱中症対策の本質は体内の適切な濃度を保つべく、発汗で失われる電解質の補充にあります。

高温多湿環境下での電解質

昼夜問わず重労働時、スポーツ活動時においては、その中でも特に高温多湿環境下では、汗として体内の水分が大量に失われます(1時間に1~2L程度)。同時に失われるのは、ナトリウムを中心とした電解質です。ナトリウムのほか、塩素カリウム、マグネシウムなどの電解質も減ります。そうなると、次節で述べる低ナトリウム血症が起きやすくなります。

低ナトリウム血症の怖さ

大量発汗時に水だけを補給すると血中のナトリウム濃度が低下し、結果として体液調整が正常に働かず、頭痛、吐き気、倦怠感、意欲低下、腹痛、こむら返り、痙攣などが起きやすくなります。重症例では“低ナトリウム血症”を引き起こします。それが特に労働時やスポーツ活動時に起きる場合、労作性(運動性)低ナトリウム血症と言います。体内の水分とともに、電解質のバランスが崩れ、重篤な不整脈や心筋梗塞、さらには中枢神経系の機能不全が起き、命を落とすこともあります。高血圧対策としてナトリウム(塩分)を控えることは正しいですが、脳に後遺症が残ったり、命を失いかねない熱中症対策として、大量発汗時にはナトリウム(必要に応じてカリウムなど)の補給が不可欠です。



水分・電解質補給のタイミング

発汗を自覚する前から、すなわち作業開始前からコップ1~2杯(約200~300mL)の水分量を補給しておくことが重要です(=脱水症防止策)。労働生理学やスポーツ医学の観点からは、水分補給のタイミングと量の設計が重要です。発汗量の多い肉体労働中やスポーツ活動中には、20~30分ごとに適量(150~200ml程度)を補給することが望まれます。大量の発汗が想定される場合には、ナトリウム濃度が0.1~0.2%程度となる飲料(150mlなら食塩0.15~0.3g程度)の活用が効果的です。

猛暑対策Q&Aコーナー

Q1 カフェイン飲料は現場では避けるべきでしょうか?

カフェインを含む飲料(コーヒーやエナジードリンクなど)には覚醒作用があり、その効果が切れるまでの眠気対策として活用できます。その一方、利尿作用を引き起こすため、体液維持という点では不向きです。作業中は水または電解質を含む飲料を基本とすることが望まれます。



Q2 帽子での対策は有効ですか?


直射日光下での作業時には、白色やベージュ色の帽子を着用することで、頭部の温度上昇を抑え、体温調節への負担軽減効果が期待できます。なお、熱中症防止策としての効力は小さいでしょう。



Q3 マスク着用が必要な場合の注意点はありますか?


マスクは呼気の熱と水分を滞留させ、体感温度と脱水リスクを高めます。高温環境下では、可能な範囲でマスクの着脱や休憩時の換気を行い、水分補給の回数を増やす配慮が必要です。現場の状況や個人の体調に応じた柔軟な運用が求められます。



Q4 一気に飲みは有効ですか?


総務・労働安全衛生担当者には、「いつ・どれくらい・何を飲むか」を具体的に示した補給ルール(目安)を現場に周知し、実行可能な体制の整備が求められます。作業中の水分補給を我慢し、休憩時や作業後に一気飲みする例が散見されますが、そのような補給では体内への吸収効率が低く、胃腸への負担が増します。


参考文献


vol.8 熱中症対策の義務化 ~効果的な電解質・水分補給とタイミング~

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PROFILE

田中 喜代次 先生

筑波大学名誉教授/教育学博士(スポーツ医学・健康増進学)
筑波大学大学院体育科学研究科修了
大阪市立大学保健体育科講師、筑波大学体育科学系助教授、筑波大学大学院人間総合科学研究科スポーツ医学教授を経て 現在に至る。

アメリカスポーツ医学会フェロー(FACSM)
日本介護予防・健康づくり学会会長、日本健康支援学会元理事長、日本メディカルフィットネス研究会元会長、健康支援事業のコンサルティングサービスを専門的に提供する株式会社THFの代表も務める。

アメリカスポーツ医学会優秀賞
日本体力医学会優秀賞
秩父宮記念スポーツ医学・科学賞奨励賞