サラヤ 福祉ナビ

福祉介護現場で知りたい!
感染対策・栄養改善・口腔ケアのサポート情報

Dr.ヨコヤマコラム

第176回:薬剤耐性菌(多剤耐性アシネトバクターなど)、院内感染で死者が発生。感染予防対策(手洗いや消毒など)の推進、徹底を!

 今季も、10月に入って、多剤耐性アシネトバクター(MDRA)による院内感染の国内発生事例が、新聞等で報道されています。大阪府下の病院で、2年半前から今年8月までの間に、結核で入院していた患者19人(58〜97歳の男女)がMDRAに感染し、うち18人(関連死を含む)が死亡しています。新聞報道等によると、前記院内感染が発生した病院では、今年1月に死亡した男性患者の発症が確認されていたにも関わらず、8月まで行政(保健所)への届出(報告)がされていませんでした。

バイキン軍団:多剤耐性アシネトバクター(MDRA) 感染症法では、発症が確認された場合、7日以内に保健所に報告する必要があります。この他、院内で医療用たん吸引器を、複数の患者に使用したり、医療スタッフが感染予防の着衣を使い回すなど院内感染防止対策がうまくいっていなかったようです。

 多剤耐性菌による院内感染は、ここ1年を見ても、筆者が知る範囲で、上記MDRAによる院内感染を含め、少なくとも下表に示す7件が発生し、複数以上の死者(高齢者が多い)が出ています(下表参照)。

表.多剤耐性菌による院内感染(発生事例)
報道月 発生内容
2018年11月
  • 福岡県の病院で、MDRAによる集団感染で入院患者6人が感染し、うち3人が死亡する。(11/10;読売新聞)
2018年12月
  • 大阪府の病院で、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)による集団感染で入院患者13人が感染し、うち4人が死亡する。(12/13;朝日新聞)
2019年1月
  • 鹿児島県の病院で、多剤耐性緑膿菌(MDRP)による集団感染で入院患者6人が感染する。(1/6;読売新聞)
2019年2月
  • 青森県の病院で、VREによる集団感染で入院患者75人が感染し、うち少なくとも8人が死亡する。(2/7、2/22;東奥日報)
2019年5月
  • 静岡県の病院で、VREによる集団感染で入院患者84人が感染し、うち1人が死亡する。(5/27;産経新聞)
2019年6月
  • 奈良県の医療施設で、VREによる集団感染で入院患者22人が感染し、うち2人が死亡する。(6/12;MBSニュース)
2019年10月
  • 大阪府の病院で、MDRAによる集団感染で入院患者19人が感染し、うち18人が死亡する。(10/17;読売新聞、10/19;毎日新聞)

 ここ10年、ペニシリン系だけでなく、他のタイプの抗生物質にも効かない多剤耐性菌や、カルバペネム系が効かない腸内細菌などの薬剤耐性菌が現れ、病院などの医療施設で集団感染が発生する事例が増えています。

 MDRA等による院内感染の発生を受け、厚生労働省は、昨年8月8日に、都道府県等に事務連絡「医療機関における薬剤耐性アシネトバクター感染症等の院内感染対策の徹底について」を出しています。また、今年7月25日に、都道府県等に事務連絡「中小病院における薬剤耐性菌アウトブレイク対応ガイダンス」について(周知徹底)」を出しています。

 上記事務連絡で、医療施設が、薬剤耐性菌による院内感染の再発(拡大)を防ぐ組織体制を構築、整備し、院内感染防止対策を徹底するよう、地方自治体が指導する。また耐性菌が検出された際は、速やかに国へ報告することを要請しています。

 発生事例に限らず、院内感染は、初動対応(耐性菌の検出・確認、感染者の隔離、情報の共有など)の遅れや、消毒の不徹底、医療器具や医療用品等の使い回し,コンプライアンス意識の低さなどが原因となって発生し、感染の拡大や死者の発生に繋がることも考えられます。

 体の抵抗力(免疫力)が低下している入院(術後)患者が、薬剤耐性菌に感染すると、全ての臓器で感染症(肺炎や尿路感染症、敗血症、創部感染症など)を併発して、死に至ることがあります。

院内感染病原微生物(薬剤耐性菌など)の検査体制や感染予防対策、衛生管理が充実、整備された大学病院などで、薬剤耐性菌による院内感染が相次ぎ、死者が発生しています。薬剤耐性菌への対処(対策)の難しさを、改めて気づかされます。


 とは言え、医療施設を利用する患者の期待(信頼、安心)にきちんと応えるため、

1)患者や医療器具類、医療従事者、院内環境(手術室、入院病棟など)から分離される菌を、定期的に調査して、薬剤耐性菌への警戒を怠らない。

2)薬剤耐性菌の感染(保菌)者を早期発見し、速やかに隔離して、必要に応じて病棟を閉鎖する。発症者を確認した時は、7日以内に行政(保健所)へ通報する。

3)手指衛生を徹底する。

4)医療器具やガウン、手袋などの使い回しを行わず、洗浄・消毒を徹底する。

5)入院患者や医療従事者等が触れる環境表面(壁面など)や器物(手すり、ベッド柵、ドアノブ、各種スイッチ、ボタン、トイレの便座など)は、こまめに清拭(消毒を含む)する。

院内感染6)外部専門家を招聘するなどして、感染の発生(拡大)を防ぐ最新情報や、感染防止のノウハウなどを学び、医療従事者の間で共有、活用するなど必要な感染予防対策を推進、徹底する必要があります。感染予防対策を、医療施設全体で取り組み、院内感染が発生(拡大)するリスクを、(少しでも)小さくしていく努力が求められます。


 高齢者入所施設などの介護施設でも、薬剤耐性菌による施設内感染が発生する恐れがあります。薬剤耐性菌対策の取り組みについて、上記ガイダンスの他、厚生労働科学研究班が作成した資料「介護施設等における薬剤耐性菌対策ガイド(2018年12月)」などでも詳しく記述されています。薬剤耐性菌による集団感染が発生しないよう、医療施設や介護施設等の運営(管理)者は、施設の職員や利用者(患者、入所者等)の健康状態に、こまめに目を配りながら、上記必要な感染予防対策を推進、徹底して下さい。

(2019.11.7)

おすすめ対策商品

手指衛生の徹底を

環境表面のこまめな清拭に

バックナンバー

先生のプロフィール

横山 浩

1970年 大阪大学大学院薬学研究科博士課程修了 薬学博士、薬剤師

職歴
大阪府立公衆衛生研究所(薬事指導部、現食品医療品部)
(社)大阪府薬剤師会試験検査センター
サラヤ株式会社(現在)
学会・研究会活動
日本薬学会
日本環境感染学会
日本防菌防黴学会(環境殺菌工学研究部会)
環境管理技術研究会