4月に入り、インフルエンザは沈静化に向かっていますが、ノロウイルスなどによる感染性胃腸炎(食中毒を含む)は、まだ流行が続いています。近年、インフルエンザや感染性胃腸炎は通年化し、今季も、発症者が(昨季の同時期より)多く報告されています。気を抜くことなく、感染予防に努め、手洗いや消毒の徹底、食材の十分な加熱調理など必要な感染予防対策に取り組んで下さい。
さて、今年1月に人獣共通感染症の一つである「コリネバクテリウム・ウルセランス菌感染症」の感染死例が、新聞等で報道されています。2016年5月に、猫から「コリネバクテリウム・ウルセランス菌」(以下「CU菌」と略記する)に感染したとみられる福岡県の60代女性が、呼吸困難に陥り、救急搬送され、3日後に死亡しています。CU菌は、ジフテリア菌と同じコリネバクテリウム属に分類される細菌で、ジフテリアによく似た症状を引き起こします。感染予防には、ジフテリアのワクチンが有効とされています。
上記死亡した女性は、屋外で猫3匹に餌をやるなど世話をしていました。猫1匹からCU菌が検出され、女性の血液などからも同じ菌が検出されて、猫から感染した可能性が高いとされています。CU菌感染症による国内初の死亡例が確認され、国(厚生労働省)は、今年1月に「コリネバクテリウム・ウルセランス感染症に関するQ&A」を改訂し、都道府県等に通知(健感発第2号、平成30年1月10日)を出し、注意喚起するとともに、医療関係者等に通知内容の周知徹底と情報提供を求めています。
CU菌感染症は、猫や犬のくしゃみや鼻水などから感染します。感染すると、喉の痛みや咳など風邪に似た症状が出て、重症化すると呼吸困難に陥り、死に至ることがあります。国立感染症研究所によると、国内で初の患者が確認された2001年以降、2017年11月までに25人の感染例が報告されています(厚生労働省の「Q&A」から)。
動物から人に感染する病気は、「人獣共通感染症」、「動物由来感染症」、「ズーノーシス」などと呼ばれています。感染症法に定められた病気でないため、これまで十分な対策も取られてきていません。
ここ1年、国内外で猫や犬などによる人獣共通感染症の感染例(死亡を含む)が相次ぎ、上記感染例を含め、新聞等で(筆者が知る範囲で)報道されています(下表参照)。
報道月日 | 報道内容 |
---|---|
2017年7月 |
|
2017年10月 |
|
2017年12月 |
|
2018年1月 |
|
2018年3月 |
|
猫や犬から感染する人獣共通感染症は、表中の感染症の他、パスツレラ症やカプノサイトファーガ・カニモルサス感染症、トキソプラズマ症などがよく知られています。いずれも、国内での感染例が報告されていますが、人から人への感染はないようです。
人獣共通感染症に感染しないよう、正しい知識や情報を持って、猫や犬など動物に接触する必要があります。感染予防対策として、原則として「ペット(犬や猫など)を、屋内で飼育しない」ことが求められます。とは言え、「ペットを室内に入れない」は、ペット愛好家にとって無理な注文のようです。
上記感染症に感染しないよう、猫や犬など動物に接触する時は、1)ペットであっても、同じベット(寝具)で寝ない、2)キッスなど過剰なスキンシップを避け、咬まれたり、引っ掻かれないように注意する、3)動物に接触した後は、必ず手洗いと洗顔を行う、4)動物の汚物(尿や糞など)は、直接素手で触れない、5)くしゃみや咳、鼻水などの症状が出ている健康不良な動物には近づかない、または早めに獣医師の診察と治療を受けさせるなどの対策が必要です。
とくに体の抵抗力(免疫力)が低下している高齢者は、人獣共通感染症に感染しやすく、病気で臥せっていたり、体調が崩れている時は、ペットなど動物との接触は避けたほうが無難です。
ペット(犬や猫など)と触れ合って、1)インフルエンザや風邪に似た症状が出る、2)咬み傷や引っ掻き傷が悪化(化膿)する、3)皮膚炎(発疹や水ぶくれ)などが出来た時は、人獣共通感染症の感染も疑って、早めに専門医による受診と治療を受けて下さい。その際、ペットを飼育していることを伝え、どう接しているかを(医師に)詳しく説明して下さい。
近年、ペット(犬や猫)を家族の一員として、日常生活を過ごす人(とくに高齢者)が多くなり、ペットと接触する時間も長く、人獣共通感染症に感染するリスクが高くなっています。ペットに感染症を移されることを、きちんと認識して、犬や猫を飼っている人は少ないように見受けられます。
高齢者がいる家庭や福祉介護施設などで、人獣共通感染症が発生しないよう、厚生労働省の「コリネバクテリウム・ウルセランス感染症に関するQ&A(平成30年1月10日更新)」などを参考にしながら、上記感染予防対策を推進、徹底して下さい。
(2018.4.2)
1970年 大阪大学大学院薬学研究科博士課程修了 薬学博士、薬剤師