専門家コラム

小暮先生の現場の目

第9回 生食肉による食中毒~予防と加熱殺菌~

死亡事件が契機。牛生レバー生食禁止に!

2011年に焼肉店でユッケを食べた客らが腸管出血性大腸菌0157による食中毒となり、幼児3名、成人2名が死亡するという痛ましい事件が発生した。この事件を契機に、ユッケなど生食用牛肉の規格基準が新たに設定された。
また、牛レバーについては、中心部も細菌汚染しているため外部を加熱処理しただけでは安全を担保できないことから、生食が禁止された。牛生レバーの生食禁止にあたっては、禁止前に駆け込み需要があり、直前3日間で年平均を上回る食中毒事件が報告されている。その後、牛生レバーの代りに豚生レバー等の提供が増えたことから、E型肝炎やカンピロバクター食中毒予防のため、豚肉や豚内臓についても生食が禁止された。なお、生レバーについては一部の消費者の潜在需要が高く、食品衛生法違反であることを知りながら客に提供した飲食店主が警察署の摘発を受け罰金刑を受けたりしている。

2011年 4月 ユッケによる死亡事故(5名)
2011年 10月 生食用牛肉の規格基準設定
2012年 7月 牛レバーの生食禁止
2015年 6月 豚肉や内臓の生食禁止

食品衛生法の加熱殺菌基準

食品衛生法の規格基準では、食品別に製造・加工・調理基準が定められている。加熱調理用の鶏卵については70℃1分間又は同等以上、生乳、牛レバー、豚肉、ハムやソーセージなどの加熱食肉製品については63℃30分間又は同等以上の加熱殺菌が定められている。また、特定加熱食肉製品(ローストビーフ)では衛生的に処理された牛肉塊を使用して中心部を63℃で瞬時加熱殺菌するよう定められている。肉類は下図のとおり、65℃程度で蛋白質が熱変性して固くなる性質があり、63℃程度の加熱が一番柔らかいため、この温度帯が繁用されている。

食品 加熱殺菌基準
鶏卵(生食用を除く) 70℃1分間または同等以上
生乳、牛レバー、豚肉、豚肉臓、加熱食肉製品 63℃30分間または同等以上
特定加熱食肉製品(ローストビーフ) 63℃瞬時または同等以上
牛肉、牛内臓、鶏肉、野生肉 基準なし(75℃1分間を指導)

肉の加熱温度と硬さ

肉の加熱温度と硬さ

一方で、牛肉、牛内臓、鶏肉、鹿や猪などの野生肉については、加熱殺菌に関する規格基準が定められていない。このため、飲食店が、中が真っ赤なハンバーグを提供したり、鶏刺し、牛ハラミ刺し、鹿肉刺しなどを提供しても、食品衛生法違反とはならないため、保健所では営業の禁停止などの措置はできないのが現状である。もちろん食中毒が起これば営業の禁停止を命ずることが出来るが、そのような事態が起こらないよう、肉類については十分に加熱調理するよう指導している。63℃30分間の加熱は一般的な調理方法ではないため、実際には、同等以上と考えられる75℃1分間の加熱殺菌を指導している。なお、焼きカキなど二枚貝はノロウイルス対策のため中心部を85~95℃90秒間加熱するよう指導している。

確実な加熱のために

しかし、実際にハンバーグを焼いて中心温度計を計ってみるとビックリするほど温度が低いことが解る。挽肉類は油脂の含有量が多いほど温度が上がりにくいため、ある程度表面に焼き目を付けた後に、短時間、電子レンジで再加熱する方法を取っている店も多い。また、焼きカキについてもフタをして蒸らさないと温度が十分に上がらないことが良く実感できる。HACCP制度化にともない、加熱温度の計測や記録も必要となってくるものと考える。最近は中心温度計も比較的安価に販売されているので、まずは中心温度計を準備して、加熱調理した食品の温度を計ってみよう!