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専門家コラム

小暮先生の現場の目

第4回:チョットした不注意が招く「ヒト由来」の黄色ぶどう球菌食中毒

調理従事者の「手」が原因、つまり「ヒト由来」の食中毒

厚生労働省が本年1月に公表した平成29年の食中毒速報値によると、昨年、食中毒発生数が多かったのは、カンピロバクター、アニサキス、ノロウイルスという順となっている。この中でカンピロバクターは鶏肉、アニサキスは鮮魚など、原材料由来の細菌や寄生虫が原因となっている。ノロウイルスも生かきが原因となることもあるが、多くはノロウイルスを保有する従事者が調理等を行ったために発生している。

同様に、手の傷、火傷、手荒れなど従事者の手が原因となるのが、黄色ぶどう球菌による食中毒である。黄色ぶどう球菌による食中毒発生数は、多くはないが年間30件前後発生し、患者数は年間600名を超えている(平成27年・28年の統計より)。

発症の機序は、手指から加工食品に黄色ぶどう球菌が汚染し、増菌することにより毒素(エンテロトキシン)が産生される。この毒素を食べて食中毒となるため、発症が早く30分から6時間のうちに激しい吐き気、おう吐を呈する。発症が早いため、食べた食品との因果関係が判明しやすい。厄介なことに、産生した毒素は熱に強く100℃で加熱してもなかなか分解されない。つまり毒素が産生されてしまうと、加熱しても食中毒は防げない。

加熱済食品の汚染に要注意!

私も、おにぎり、玉子サンド、厚焼き玉子、桜デンブ、味噌ラーメン、焼き鳥丼、厚切焼き肉弁当などを原因食とした事件に遭遇している。原因となった食品は、米飯、ゆで玉子、デンブ、肉味噌などいずれも加熱済食品である。

加熱済食品には、細菌汚染がほとんどないが、ここに黄色ぶどう球菌が付着して温かい環境に置かれると、増菌して毒素が産生してしまうことがある。黄色ぶどう球菌がすべて毒素を作るわけではなく、たまたま毒素を作る菌が付着して増菌した場合に食中毒になることが知られている。毒素を産生しなかった場合も含めると、調理人の手を介して加熱済食品に黄色ぶどう球菌を付着させている数は、把握しきれないほどあると考えられる。

つい手袋をはずした手で・・・

築地の場外市場には、厚焼き玉子を製造販売している業者が多い。玉子焼きは黄色ぶどう球菌が付着すると、非常に良く増菌する食品である。このため、焼き上がった後は、素手で触らないこと、必ず5℃程度に冷蔵してから販売するよう指導している。その理由は、温かいまま素手で触ると、触った部分の周りだけ黄色ぶどう球菌が増菌して、その部分を食べた者が食中毒を発生する事例が過去に複数発生したためである。

味噌ラーメンの事件では、作り置きした肉味噌を容器ごと湯煎で長時間保温したこと、焼き鳥丼では前日に売れ残った焼き鳥を串から外して容器に入れ湯煎して長時間保温したことにより増菌させている。湯煎はあまり温度が上がらないことがあり、細菌の増殖には適温となりやすいので注意が必要である。

厚切焼き肉弁当の事件では、慣れない厨房で火傷をしたため、使い捨て手袋をして調理を行っていたが、思ったより販売数が多くなったため、つい手袋をはずした手で焼き肉をカットしたことで菌を付着させていた。さらに、温かい白飯の上に厚切焼き肉を載せてパックした後、直ぐにビニールや包装紙にて包装した弁当を、午後2時に購入して午後9時に喫食し、午後11時には激しい吐気、おう吐のため救急隊により病院に搬送されている。つまり2~9時まで7時間も増殖する時間があり、この間に毒素が産生されたものであった。毒素は37℃では6時間程度で産生するが、20℃以下では3日間もかかるため、予防のためには低温での保管が必要である。

傷
火傷

食中毒事件の翌日に撮影された調理人の手と火傷

黄色ブドウ球菌

事故のあった弁当店の拭き取り検査

黄色ぶどう球菌による食中毒を起こさないための対策は?

どの事件も、調理人の「ちょっとした不注意」から事件が発生しており、長時間温かい状態で保管された加工食品で発生している。これらの事件の教訓は、加熱調理した後、すぐに食べない食品については、

  1. 1

    素手で触らないこと。
  2. 2

    良く放冷して、低温で保管すること。
    (食中毒菌の発育至適温度帯である約20℃~50℃での保管は危険)
  3. 3

    手洗い消毒を励行すること。

など、食中毒防止の三原則のうちの二つ、「つけない」「増やさない」に合致したものである。特に加熱済み食品を素手で取り扱わないことや手洗いの励行は、調理従事者にとって基本中の基本であり、自らが食中毒菌の汚染源にならないという意識をしっかりと持って、習慣として行うべき対策である。