専門家コラム

小暮先生の現場の目

第2回:腸管出血性大腸菌O157による食中毒

今年の夏はO157食中毒が多い!?

先月、埼玉、群馬両県の総菜販売店(同系列複数店)でポテトサラダなどの総菜を購入した人が腸管出血性大腸菌O157に感染する食中毒事件が発生している。当初、最初に患者を出した惣菜販売店が原因施設と考えられていたが、その後の調査で系列店でも患者の発生が確認された。原因と考えられるポテトサラダは、群馬県内の他の食品製造業者Aが製造したもので、配送された各惣菜店で、ハムやリンゴなどを加えて再調理されて販売されていた。このため、群馬県は食品製造業者Aを調査し、保管されていた同一ロット品を検査したがO157は検出されなかった。総菜販売店従業員の検便からもO157は検出されず、この事件については、9月6日現在も感染原因が特定されておらず調査中であり、報告が待たれる。

O157食中毒は毎年夏場に発生件数および患者数が増加するが、今夏のO157の患者数は例年より多く、特に関東地方を中心にO157VT2が、直近5年間で最も流行した年のピーク時を超える水準となっている。また、このO157VT2が広域かつ散発的に検出されていることが、国立感染症研究所における検査の結果から判明している。
(参考:平成29年9月1日付 健感発0901第2号、薬生食監発0901第3号「腸管出血性大腸菌による食中毒等の調査及び感染予防対策の啓発について」)

過去の食中毒事例は主に肉類や野菜加工品

上述の総菜店でのO157食中毒発生の報道がされた際、世間では「O157って肉じゃないの?」「ポテトサラダでなぜ?」といった声もあった。実際、過去の食中毒事例を見ると下記のとおりであるが、主に肉類と野菜加工品に二分されていることがわかる。

肉類(牛レバー、ユッケ、ハンバーグ、一口ステーキ等) 野菜加工品(おかかサラダ、ポテトサラダ、野菜サラダ、かぶ浅漬け、白菜切漬け、和風キムチ、冷やしきゅうり、キャベツ千切り、カットネギ等) その他(井戸水、いくら醤油漬け)

では、O157はどこに存在し、どのように食品に付着し食中毒を引き起こすのか。過去の調査では1~2割の牛が腸管にO157を保有しており、と畜解体する過程で食肉に汚染することが知られている。2008年の流通食肉の実態調査では、牛レバーで1.9%、牛結着肉で0.2%、牛ミンチ肉0.2%であった。このため、厚生労働省はハンバーグや結着肉については中心部まで十分に加熱するよう指導しており、ユッケなど生食用牛肉については、枝肉の加工から食肉まで衛生管理を徹底した施設でのみ加工調理するよう指導している。

一方、野菜加工品によるO157については、肥料として使用された牛糞からの汚染と考えられている。このため、大量調理施設衛生管理マニュアルでも生食用野菜類については、100ppmの次亜塩素酸Na液で10分間または200ppmの次亜塩素酸Na液で5分間殺菌するよう指導しているのだが・・・?

老人保健施設でのキュウリの和え物による食中毒

平成28年8月に、千葉県と東京都の老人保健施設で合計10名が死亡するO157食中毒が発生した。この事件では、キュウリの和え物が原因食品と判明している。キュウリは4ケ所の老人保健施設に配送されたが、キュウリを流水で洗浄しただけで加熱や殺菌を行わなかった施設で患者が発生している。キュウリを熱湯や次亜塩素酸ナトリウムにより殺菌した施設では、食中毒の発生が無かったことから、 同マニュアルを遵守することの重要性が示唆され、この事件を機に、「特に高齢者、若齢者及び抵抗力の弱い者を対象とした施設では、生食用野菜類は殺菌すること」が同マニュアルに明記された。
(参考:平成 29 年 6 月 16 日付 生 食 発 0616 第 1 号「大量調理施設衛生管理マニュアル」の改正について)

O157対策は、食品衛生の基本を守ること

O157は、少量でも発症し、溶血性尿毒症症候群(HUS)などを引き起こし幼児や高齢者などではしばしば死亡例の多い大変怖い食中毒細菌である。

皆さんの厨房に持ち込まれる肉類や野菜類にも、いつ付着してくるかは分からない。肉類については、十分に加熱調理するとともに、二次汚染を防ぐことが大切である。サラダなど生野菜については、十分に洗浄するとともに、必要に応じて殺菌して冷蔵管理を徹底することが大切である。しかし、これらに限らず、様々な食品や食材からO157が見つかっているため、食中毒の対策としては、やはり手洗いをはじめとした食品衛生の基本を守って、衛生的な取り扱いを行うことが大切となる。

食中毒予防の三原則の、「つけない」「増やさない」「やっつける」を再度徹底しましょう!