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専門家コラム

小林先生情報館

第7回:糞便汚染ではない食中毒

原因菌は?

食中毒といえばヒトあるいは家畜、鶏、ペットなどの腸管内に生息する細菌が色々なルートによって食品や飲み物を汚染して起こるのが多いのですが、今回の食中毒は、ヒトの'ノド'にいる細菌によるものです。それは「溶血性レンサ状球菌」というもので、多くの種類(血清型)に区別されています。

ヒトの口腔や鼻腔内に常在する細菌で,顕微鏡で見ると1/1000ミリメートル(1μm)程度の丸い形をし、真珠のネックレスのように連鎖しています。拡大した電子顕微鏡の写真が愛知県衛生研究所のホームページにありましたのでお借りして示します。この細菌は溶血毒をつくり動物の赤血球を溶血することから菌の名前になっています。なかでもヒツジ赤血球を完全に溶血し(β(ベータ)溶血)、菌の細胞壁の構成成分の違いによる血清型別でA群に分類される菌(Streptococcus pyogenes)が大部分です。

レンサ球菌の電子顕微鏡写真 (愛知県衛生研究所HPより)

よく知られている疾患は秋から冬にかけて15歳以下の年少児間で流行する高熱とノドの痛みを示す咽頭炎や風邪様症状ですが、時にはもっと重い'しょう紅熱'や'リウマチ熱'を起こします.また死亡率が30%を超える'劇症型溶レン菌感染症'もこの菌によって起こることがあり、俗に'人喰いバクテリア'ともいわれています。

このように本菌感染症の主な症状は腹痛、嘔吐、下痢ではなく、頭痛、発熱、倦怠感、咽頭痛です。感染源はこの菌を保有するヒトで、くしゃみや咳等による飛沫感染が普通ですが、ここでは汚染した食品を食べて集団感染した事件について紹介します(文中  部が本菌事件の特徴です)。

食中毒集団発生事例

これまでわが国で起こった主な事件を表にまとめました。食品を介して発生していますので多くの患者がみられます。ヒトからヒトへの感染は年少者が多いのに対して、食中毒では青年、壮年が多く、事例3では国際会議の警備をしていた警察官であり、事例8も大学のオープンキャンパスに従事していたスタッフ(学生と職員)の成人で発生しています。
発病率も事例5では80.9%、事例6では88.5%という高率で、他の事例でも60%を越えるものがみられます。また飛沫感染は寒い時期に多発しますが、食中毒は5月から9月の暖かい季節に発生するのが特徴となっています。

食品媒介によるA群溶血性レンサ状球菌集団発生事件

No. 発生年月日 場 所 患  者 喫食者数 患者数(発病率) 原因食品 原因施設
1) 1969年7月 埼玉県 小中学生 204 69 (33.8%) 焼きそば 学校給食調理場
2) 1983年7月 東京都 講演会参加者 890 583 (65.5%) サンドイッチ 飲食店
3) 1997年5月 福岡県 警察官$ 2,676 943 (35.2%) 仕出し弁当(1) 飲食店
4) 1997年7月 高知県 ビール祭り参加者 319 77 (24.1%)# 不明 飲食店
5) 1998年8月 茨城県 ソフトボール参加者 423 342 (80.9%) 仕出し弁当(2) 飲食店
6) 1998年8月 熊本県 会社職員組合
大会参加者
287 254 (88.5%) サンドイッチ(3) 飲食店
7) 2003年9月 千葉県 葬儀参列者 120 67 (55.8%) 仕出し弁当 飲食店
8) 2005年7月 神奈川県 大学生、職員 461 298 (64.6%) 仕出し弁当 大学内職員食堂

※表は左右にスライドできます。

$ 国際会議の警備     # 従業員だけでの発病率は67%

  1. (1) 出し巻き卵、サケ、牛肉
  2. (2) 野菜の煮物、牛肉信田巻き、厚焼き玉子、シュウマイ、カットメロン
  3. (3) 卵、ポテト、ハム、ツナ

事例3では原因と考えられた出し巻き卵の汚染菌数は1gあたり5,900個程度とそれほど多くはありませんでしたが1)、患者は弁当を食べた数時間のうちに発病していますので、この菌の咽頭部への定着性が高く、感染力も強いことが推察されます。なお、この菌はペニシリン系抗生物質が非常に有効ですが、近年、耐性菌の出現もみられています。

原因食品は?

原因食品にはいろいろな'卵製品'が関連しており、それらからも患者と同じA群溶血性レンサ状球菌が検出され、その遺伝子型も一致しています。

この細菌は発育に血液成分を必要とすることから、汚染した菌が食品中で増えるかどうかが食中毒発生に重要ですが、分離菌を使った実験が行われ、厚焼き玉子や白身、黄身では25~35℃で旺盛に増殖することが確認されており2,3)、温度が高い夏季などでは食品の不適切な温度管理は食中毒の原因となる懸念が指摘されています。

予防策は?

この食品を介して起こる感染症は他の食中毒でみられるような食材からの二次汚染、交叉汚染というより,ノロウイルスのときと同じように調理従事者や食品取扱者などからの汚染が原因と考えられます。

本菌はこれまで呼吸器系疾患の原因菌と考えられてきましたが、発育実験などからとくに'卵製品'ではよく増殖することが確認されましたので,製造後加熱しないで食べることが多い仕出し弁当や卵サンドイッチ等では冷蔵保存や低温輸送が必要です。また(1)のどの痛みを訴えていないか、風邪様症状がないかなど食品取扱者の健康に注意し、(2)調理済み食品は2時間以内に喫食するような配送計画を立てるなど、「付けない」、「増やさない」の二つの食中毒発生予防原則に関する対策が必要と思われます。

参考

  1. (1) 池田嘉子ほか;弁当が原因と考えられるA群レンサ球菌の集団感染、病原微生物検出情報、18(11)、1977.
  2. (2) 遠藤美代子;食品媒介のレンサ球菌による集団咽頭炎について、東京都微生物検査情報、20(5)、1999.
  3. (3) 小岩井健司;千葉県でも患者がみられた食中毒様A群レンサ球菌感染症について、千葉県衛研報告、23:23-25、1999.

獣医師、医学博士 小林 一寛