企業の感染対策コラム

No.14 国際イベントに備えて①

— 今、知っておきたい感染症の話題 —

東京オリンピック・パラリンピックまで、後1年となりました。感染症対策として、自分たちに何ができるか、起こった時にどうしたら良いかということを想定し、準備をしておくことが大切です。一人一人が正しい知識を積み重ねていくことが重要になります。
今回から「国際イベントに備えて」と題し、4回のシリーズで、感染症や熱中症等の健康被害について、基礎知識や対策をお伝えしていきます。

株式会社 健康予防政策機構 代表・医師 岩﨑 惠美子

Q&A

Q1

国内の感染症の発生状況は変わってきているのですか?

国内の感染症の発生状況は、ここ数年で今まででは想像できないような変化をしていると言えます。その大きな理由は、海外から多くの人が日本に来ているということが考えられます。日本政府は観光立国を目指しており、近年、急激に訪日外国人数が増加しています(図1)。世界中から人が訪れるということは、ヒトと一緒に海外で流行している感染症が国内に持ち込まれるおそれが十分にあり、感染症発生のリスクが高まるということです。
かつては検疫感染症として、海外から入ってくる感染症をくい止める検疫対象であったコレラを例に見ますと(図2)、1980年代には年間50人前後の発生でしたが、国内から海外への渡航者数の増加に伴い、1990年代には発生者が年間100人を超す年も見られるようになり、1995年にバリ島での観光からの帰国者約300人がコレラに感染した事例が発生しました。現在ではコレラが発生している国は少なくなってきており、2007年には検疫感染症から除かれました。
このように感染症の発生状況に影響を与える一つに、海外からのヒト等の流入も考えられ、2014年に発生したデング熱や近年のインフルエンザの夏季の流行はそれらを表しています。

訪日外客数・出国日本人数の年別推移
国内のコレラ発生状況

Q2

海外からの渡航者の増加によって注意すべき感染症を教えてください。

表に、海外からヒトを介して国内に入ってくる可能性がある注意すべき感染症を示します。

感染症名 病原体の分類 感染経路 主な流行地域
細胞性赤痢 細菌 経口 発展途上国
腸チフス
パラチフス
A型肝炎 ウイルス
E型肝炎
アメーバ赤痢 原虫
クリプトスポリジウム症
ジアルジア症
チクングニア熱 ウイルス 蚊媒介 アフリカ、南アジア、東南アジア
ジカウイルス感染症 中南米、アフリカ
デング熱 熱帯
亜熱帯地域
マラリア 原虫
レプトスピラ症 細菌 経口、経皮
風疹 ウイルス 飛沫、接触 世界各地
(特にアジア、アフリカ)
麻疹 飛沫、接触、空気

国立感染症研究所「日本の輸入感染症例の動向について」2019年4月1日更新版参考

感染経路に「経口」とあるものが多く見られますが、経口感染とは、病原体に汚染された飲食物の摂取や、感染者のおう吐物・ふん便等で汚染された手を介したりなどして間接的に、病原体が口から侵入することによって引き起こされる感染症です。アメーバ赤痢、クリプトスポリジウム、ジアルジア等の原虫感染症は日本では聞き慣れませんが、寄生虫の一種で発展途上国では、現地で食べたものから感染する場合があり、ごく普通に発生する感染症の一つです。

蚊が媒介する感染症にも注意が必要です。ウイルスなどの病原体を持った蚊に刺されて感染したヒトが国内に入ってくるケースがありますが、来航する航空機の貨物室等に荷物と一緒に蚊が紛れ込んでいると、到着した際、貨物室から最初に出てくるのは蚊です。空港や周辺で生息した場合には、それらの蚊を起点として国内で感染症が引き起こされるおそれがあります。空港周辺の環境をはじめ、私たちの身の回りでも、水たまりをなくしたり、やぶや草むらをなくし、蚊の発生防止策を講じ、蚊が繁殖・生息する場所をなくすことが大切です。

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PROFILE

株式会社健康予防政策機構

代表 岩﨑 惠美子

岩﨑先生新潟大学医学部卒業後、耳鼻咽喉科医師を経て、インド、タイ、パラグアイで医療活動を行う。1998年より、厚生労働省、成田空港検疫所、企画調整官仙台検疫所長を歴任。その後、WHOの要請でウガンダ現地にてエボラ出血熱の診療・調査に従事。またSARS発生時には日本代表として世界会議に出席。2007年からは仙台市副市長に就任。インフルエンザ対策として「仙台方式」を提唱し、日本の新型インフルエンザ対策の基盤を構築する。現在は、感染症対策のプロとして、新型インフルエンザをはじめとする感染症対策の啓発活動を行っている。


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