企業の感染対策コラム

No.8 東京五輪をむかえるにあたって知っておきたい感染症の基礎知識

2月は冬季五輪が韓国の平昌で開催されましたが、その中で、ノロウイルスによる集団食中毒の発生が報道されていました。大規模で国際的なイベントでは、国外から感染症が持ち込まれることや、感染症が発生した場合は急速に広がることが懸念されます。
今回は皆様のご質問にお答えする形で、2年後の東京五輪をむかえるにあたって、私たちが知っておきたい感染症の基礎知識をお伝えしていきます。大規模なイベント開催においては、食中毒対策も含め、感染対策は必要不可欠ですが、対策は平時の延長線上にあります。今から、感染症とその対策に対する正しい知識を身につけ、日頃から感染対策を行いましょう。

株式会社健康予防政策機構 代表・医師 岩﨑 惠美子

Q&A

Q1

オリンピックをむかえるにあたって、流行が懸念される感染症や、海外からの旅行者の増加によって起こると考えられる感染症を教えてください。

インフルエンザ

東京五輪は夏季に開催されますが、この時期、南半球では冬季にあたります。昨年、夏場にインフルエンザの流行がありましたが、これは南半球で流行したインフルエンザウイルスが国内に持ち込まれ、流行を起こしたと推測されます。開催時期はインフルエンザの流行シーズンではありませんが、流行する可能性があることを念頭に置いて対策をしておく必要があります。

風疹・麻疹(はしか)

海外の国々で日常的に小児の間で流行している感染症は、国内に入ってくる可能性が高いと考えられます。東日本大震災の時に、海外からのメディア関係者が麻疹に罹り、小さな流行が起こりました。風疹や麻疹は後遺症を残すことがありますので、特に注意が必要な感染症の一つです。

ノロウイルスなど食品由来の消化器関係の感染症

夏季に開催のため、細菌性の食中毒対策も重要です。また、赤痢など国内ではあまり発生することのない感染症が持ち込まれる可能性もあります。

デング熱など、蚊が媒介する感染症

夏季は蚊が媒介する感染症が流行する時期です。2014年には都内の公園を中心にデング熱が流行しました。東南アジアの国では、日本脳炎、デング熱などの蚊が媒介する感染症は日常的に流行しています。

しかし、この時期、日本は夏季であり、インフルエンザウイルスは高温多湿に弱いため、大規模や長期継続した流行には至らず終息していきました。
グローバル化が進んだ現代社会では渡航する機会も増え、季節を問わず海外の様々な地域から国内に感染症が持ち込まれるおそれがあるため、常日頃から手洗い等の感染対策に努めましょう。

Q2

感染経路として、特に注意が必要な経路は何でしょうか?

特に注意が必要な感染経路は、飛沫感染接触感染です。
インフルエンザや風疹、麻疹などは、その原因となるウイルスが感染者の唾液や鼻汁に含まれます。せきやくしゃみの飛沫の飛散や、せきを押さえたり鼻をかんだ手を介して、汚染を広げていきます。風疹や麻疹は空気感染がよく知られていると思いますが、飛沫感染と接触感染の対策も重要です。人混みに行った後は、必ず手を洗うように、心がけましょう。

主な感染経路

  • 飛沫感染 せき・くしゃみ・会話(約1m以内)など
  • 接触感染 喀痰・血液・便・尿 など
  • 空気感染 = 飛沫核感染 せまい部屋 など
  • 媒介動物感染 動物・昆虫 など

Q3

国際的に大規模な催しの感染対策として、最も重要なことは何ですか?

最も重要なことは、手洗いや手指消毒の励行です。感染症は、飛沫感染や接触感染により広がることが多いので、その対策が最も重要です。さらに、ノロウイルス等の食品由来の感染症では、感染者の便や吐物に原因となるウイルスや細菌が含まれていますので、トイレに行った後は、必ず手洗いを行いましょう。国際的に大規模な催しであっても、感染対策の基本は手洗いです。
また、夏季に開催の東京五輪では、蚊に対する対策も重要です。屋外で活動する際には肌の露出を避け、忌避剤を使用するようにしましょう。

Q4

他国と日本の感染症への意識、対策、行政の対応などの違いを教えてください。

他国では感染症対策は自己責任で行うものであり、日本のように広く市民に感染症の情報や対策を詳しく教えている国は、ほとんど見られません。
日本は島国のため、外から侵入してくる感染症から、自分たちの身を守る、国を守るという意識が必要です。検疫体制や感染症のサーベイランス(発生状況の監視システム)、市民への情報周知など、これだけ感染症対策に手を尽くしている国は日本以外にはないと考えられます。
このように海外の国々と感染症対策に対する意識の違いがありますので、さまざまな国から訪れる旅行者を通して持ち込まれる感染症から自らを守ることが大切です。そのためには、まず手洗いを行うことが有効です。

また、他国との大きな違いとして、マスクの着用が挙げられます。国内でも、インフルエンザの予防としてのマスクの着用は、あまり効果がないことは浸透してきましたが、マスクの着用を習慣化している方が見られます。海外では、マスクを着けて、顔の表情が見えなくなるということを非常に嫌いますので、日常的にマスクをする習慣は控えるほうが望ましいと思われます。

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PROFILE

株式会社健康予防政策機構

代表 岩﨑 惠美子

岩﨑先生新潟大学医学部卒業後、耳鼻咽喉科医師を経て、インド、タイ、パラグアイで医療活動を行う。1998年より、厚生労働省、成田空港検疫所、企画調整官仙台検疫所長を歴任。その後、WHOの要請でウガンダ現地にてエボラ出血熱の診療・調査に従事。またSARS発生時には日本代表として世界会議に出席。2007年からは仙台市副市長に就任。インフルエンザ対策として「仙台方式」を提唱し、日本の新型インフルエンザ対策の基盤を構築する。現在は、感染症対策のプロとして、新型インフルエンザをはじめとする感染症対策の啓発活動を行っている。


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