子供の感染対策コラム

No.9 ノロウイルス感染経路

ー 汚染拡大を防止するトイレの衛生 ー

ノロウイルス感染症による症状は急性胃腸炎です。病原体は腸管で増殖するので、おう吐、下痢、腹痛などの胃腸症状を起こします。発熱をともなう場合もあります。ノロウイルス感染症は、一年を通して発生していますが、特に秋から冬にかけて多発し、これからが流行シーズンです。自分がかかったら辛いですし、周囲の人にも感染させやすい病気です。流行期をむかえて、ノロウイルス感染症を予防するための注意点を解説します。

川崎医科大学 総合医療センター 小児科 部長(教授) 中野 貴司

どこから感染する?

1.食中毒

ノロウイルスで汚染された飲食物を介して感染します。わが国における平成29年の食中毒発生報告では、食中毒事例1,014件のうちノロウイルスによるものは214件(21.1%)を占め、患者数では総患者数16,464名のうち8,496名(51.6%)でした。原因病原体別の患者数で、ノロウイルスは第1位でした。

食中毒といえば暑くて湿度の高い季節を連想しがちですが、夏に多い細菌性食中毒と異なり、ノロウイルスによる食中毒は秋から冬に多いのです。毎年11月頃から発生件数が増加しはじめ、12月から翌年1月が発生のピークになる傾向があります。

厚生労働省:ノロウイルスに関するQ&A(平成30年5月31日改定)

ノロウイルスによる食中毒発生状況

出典:厚生労働省 ノロウイルスに関するQ&A

飲食物が元々汚染されていて起こる食中毒もありますが、ノロウイルスに感染した食品取扱者によって食品が汚染されて発生する事例も多く、原因食品が特定できないことはしばしばです。

2. ヒトからヒトに感染

ノロウイルスは患者の糞便や吐物に大量に含まれています。それが手指など媒介物を介して、ヒトからヒトに感染します。非常に少ないウイルス量でも病気を発症させるので、ごくわずかな汚染でも感染するケースがあると言われます。また、ノロウイルスに感染していても症状を示さない不顕性感染が相当数あるとされます。こんなことも、感染伝播のコントロールを難しくしている要因です。

感染予防に大切なトイレ対策

食中毒においても、ヒトからヒトへの感染でも、糞便による汚染は感染の大きな原因となります。排便後の手洗いやオムツの取り扱いに十分気をつける必要がありますが、トイレを衛生的に保つ工夫も求められます。この点に関して、興味深い研究結果を見つけたので紹介します。排便後の身体や便器とその周囲の糞便による汚染状況を、模擬実験で確認した長野県北信保健福祉事務所による研究です。

高野穂高、他(長野県北信保健福祉事務所):トイレを起点とするノロウイルス汚染拡大の検証.食品衛生研究 62:33-35,2012.

■ 擬似水様下痢便で排便状態を再現、和式トイレと洋式トイレで比較

ポスターカラーを水で薄めた溶液を擬似水様下痢便として、下痢便排便状況に近い状態を再現しました。そして飛散や跳ね返り状況を確認し、身体、衣服や靴、便器とその周囲の汚染状況を検証しました。また、実験は和式トイレと洋式トイレで行い、両者を比較しました。

和式トイレの方が汚染範囲が広い

和式トイレと洋式トイレの双方で、お尻や太ももへの飛散による汚染が確認されましたが、和式トイレではさらにズボンや靴へも飛散していました。便器周囲の床面や壁面への飛散は、和式トイレのみで認められました。さらに和式トイレでは、水洗の水を流すことにより、便器や便器周囲の床面へ汚染が拡散しました。

▲和式トイレでの水溶下痢便による臀部の汚染

▲和式トイレでの水溶下痢便による被服の汚染

▲和式トイレでの水溶下痢便による便器周辺の汚染

洋式トイレは蓋をして水を流し、便座はクリーナーで清潔に

上記の模擬実験において、洋式トイレでは便座内側への飛散による汚染は認めましたが、便器周囲への汚染拡大はありませんでした。また、洋式便器に蓋をして水洗を流すことで周囲への飛散が防げます。さらに、便座はクリーナーで糞便などの汚れを拭きとれば、ノロウイルス感染の予防に効果的と考えられます。もちろん、クリーナー使用後や排便後の手洗いはしっかりと励行しましょう。

便座クリーナと手洗い

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PROFILE

川崎医科大学 総合医療センター 小児科

部長(教授) 中野 貴司

中野先生1983年信州大学医学部卒業、1983年三重大学医学部付属病院小児科研修医、1984年尾鷲総合市民病院小児科、1985年国立療養所三重病院小児科、1987年ガーナ共和国野口記念医学研究所派遣(2年間)、1989年三重大学医学部小児科、1995年国立療養所三重病院小児科(この間、中国ポリオ対策プロジェクトへ1年間派遣)、2004年4月 独立行政法人化により"国立病院機構 三重病院"と改称、2010年7月 川崎医科大学小児科教授、現在に至る。


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