子供の感染対策コラム

No.4 気をつけたい子どもの感染症 -夏号-

児童が集まる場の感染症対策の情報をお届けします

夏に流行する感染症

本コラムは、2016年10月に「気をつけたい子どもの感染症-冬号-」の掲載からスタートしました。寒い冬はインフルエンザなどの流行シーズンですが、子どもたちを悩ます感染症の中には暑い夏に流行するものもあります。キャンプ、バーベキュー、海水浴、夏祭り、花火大会...等々、外出の機会が増える季節です。高温多湿の気候で体力を消耗しやすい時期でもあり、感染症対策を忘れてはいけません。今回は、夏に流行する感染症について解説します。

川崎医科大学総合医療センター 小児科 部長(教授) 中野 貴司

プール熱はプールでうつる?

しばしば「プール熱」という病名の呼称を耳にしますが、医学用語としては「咽頭結膜熱」が正しく、アデノウイルスによる感染症です。初夏に患者数が増加することが多く、結膜や咽頭から病原体であるアデノウイルスが排出されるため、プールで直接あるいはタオルなど媒介物を介しての感染拡大が時に認められ、このような俗称が付けられました。しかし、プールの水質基準含め衛生管理指針が整備され、感染予防の観点からタオルの共有は行わないことも徹底され、昨今ではプールを介しての伝播は認められなくなってきています。したがって、「プール熱」という呼称は正しくありません。プールと関係なくても、アデノウイルスは飛沫感染や接触感染(本コラムNo.2「病原体に感染する経路」)によって伝播しますから、手洗いや咳エチケットなど一般的な予防対策の徹底が大切です。

咽頭結膜熱とは(国立感染症研究所)

アデノウイルスによる咽頭結膜熱

「咽頭結膜熱」という病名の通り、発熱、咽頭炎、結膜炎が主な症状です。潜伏期間は2~14日とされ、ウイルスに感染してから発病するまで1週間以上かかることもあります。発熱は39-40℃の高熱となることも多く、咽頭痛(ノドの痛み)や頭痛があり、食欲は低下します。これらの症状は3-7日間続き、頚部(クビ)や後頭部のリンパ節が腫れて痛むこともあります。結膜炎の症状は、結膜(眼球の白い部分)が赤く充血する、涙が多くなる、まぶしがる、眼脂(めやに)がでるなどです。これら臨床症状から診断しますが、アデノウイルス抗原を検出する迅速診断キットもあります。アデノウイルスに対する抗ウイルス薬など特異的な治療薬はなく、症状を軽減するための対症療法が行われます。患者からのウイルス排出は、発病後初期の数日間が最も多いですが、その後、時には数か月という長期にわたって糞便中への排泄が続くこともあります。「咽頭結膜熱」は学校保健安全法に定められた「第二種感染症」であり(本コラムNo.3「感染症による出席停止期間―新しい年度をむかえて―」)、発熱、咽頭炎、結膜炎などの主要症状が消失した後2日を経過するまでは出席停止が定められています。

夏カゼの原因、エンテロウイルス

「夏カゼ」という言葉がしばしば使われますが、文字通り夏にかかるカゼのことです。いろいろな原因がありますが、エンテロウイルスは夏に流行する代表的な病原体です。エンテロウイルスにも多くの種類があって、その症状は様々ですが、よく知られた病型として「手足口病」や「ヘルパンギーナ」があります。

手足口病

エンテロウイルスの中でも、コクサッキーウイルスA6, A10, A16型やエンテロウイルス71型などが原因となります。潜伏期間は3~6日です。口の中やノドに痛みを伴う小さな水疱(みずぶくれ)のような発疹ができ、唾液が増え、手・足末端や臀部にも小水疱様の発疹がみられるのが特徴です。発熱をともなうこともありますが、通常は1~3日以内に解熱します。治療は対症療法が行われます。

ヘルパンギーナ

おもにコクサッキーA群ウイルスに属するエンテロウイルスが原因となります。潜伏期間は3~6日です。咽頭(ノド)や口の中の粘膜に水疱様の発疹や少し凹んだ潰瘍を形成するのが特徴的症状です。発熱をともなうことが多く、しばしば高熱となり数日間続きます。治療は対症療法を行います。

ヘルパンギーナとは(国立感染症研究所)

口内炎がある時の食事

手足口病やヘルパンギーナでは、口内の発疹は痛みをともない、しばしば食欲不振の原因となります。小児は水分や食事が摂れないと脱水になりやすいので、それを防ぐために工夫が必要です。塩分や醤油、ケチャップなどは、口内炎の痛みを増強します。果物ジュースやイオン飲料も飲みたがらない児が多いです。一方、プリンやコーヒー牛乳など甘いものの方が、一般的に痛みの刺激は少ない印象です。

手足口病/ヘルパンギーナと出席停止

これらの病気では、ウイルスは、唾液には1~2週間、糞便には数週から数か月間排出されます。したがって、流行拡大を阻止する目的での登校(園)停止は有効性が低く、ウイルス排出期間が長いことからも現実的ではありません。発熱はなく食事が食べられているなど本人の全身状態が良好であれば、登校(園)は可能と考えます。

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PROFILE

川崎医科大学 総合医療センター 小児科

部長(教授) 中野 貴司

中野先生1983年信州大学医学部卒業、1983年三重大学医学部付属病院小児科研修医、1984年尾鷲総合市民病院小児科、1985年国立療養所三重病院小児科、1987年ガーナ共和国野口記念医学研究所派遣(2年間)、1989年三重大学医学部小児科、1995年国立療養所三重病院小児科(この間、中国ポリオ対策プロジェクトへ1年間派遣)、2004年4月 独立行政法人化により"国立病院機構 三重病院"と改称、2010年7月 川崎医科大学小児科教授、現在に至る。


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